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駅前から広がる街づくり。地方マーケティングの魅力とは?

2023.02.28Premium Contents
駅前から広がる街づくり。地方マーケティングの魅力とは?

今年(2022年)の11月に開業2周年を迎えたアミュプラザみやざき。
駅の賑わいが中心市街地につながり、宮崎の街そのものを活性化するために開発された本商業施設の運営に携わるJR宮崎シティ営業部担当課長 山﨑雄大様、同物販グループ副課長 上島将貴様に、地方マーケティングの魅力についてお話を伺った。

■キャリアのスタートは鉄道マン

神津:
まずはお二人のこれまでのご経歴を簡単に教えていただけますか。

山﨑:
2人とも実はJR九州の社員なのです。出向という形でJR宮崎シティ(注:アミュプラザみやざきの運営会社)に出向しています。
JR九州の社員は最初、鉄道の現場に配属されることがほとんどで、私も1年目は長崎駅に勤務していました。2年目は福岡や北九州近郊の通勤通学の電車で車掌業務、そして3年目からアミュプラザ小倉を運営している小倉ターミナルビル(現JR小倉シティ)という会社に出向しました。そこからアミュプラザおおいたの開発プロジェクトに5年半ほど参加しまして。そして今のアミュプラザみやざきを運営しているJR宮崎シティ、ここは開業1年半前から参加していますので今年で4年目ですね。このように、かれこれ14年間ほどはずっと商業施設の開発や運営の仕事に携わっています。

神津:
ということは、今回のアミュプラザみやざきのプロジェクトには駅前商業施設のエキスパートとして投入されたということですね。
上島さんもキャリアの最初は鉄道のお仕事だったのですか。

上島:
はい。私が最初に配属されたのは北九州市の折尾駅でした。その後は長崎に異動し、特急かもめの乗務員をしていました。

神津:
特急列車の車掌さんだったのですね!

上島:
はい。そして3年目にJR九州から出向という形でアミュプラザ博多を運営しているJR博多シティに移動し、洋服やバッグ、コスメなどの雑貨を担当していました。そして2021年の4月にJR宮崎シティに移動し、物販全般を担当しています。

神津:
お二人とも鉄道マンがキャリアの始まりだったのですね。
ここからはアミュプラザみやざきを通して地方マーケティングについて深くお話を聞かせていただければと思います。
まず私の感想となってしまうのですが、アミュプラザみやざきはいわゆる駅直結型の駅ビル施設、関東でいうとルミネのような・・・とは全く性質が違いますよね。
まずはアミュプラザみやざきの成り立ちについて。お話をきかせてください。

■駅から賑わいを拡げて街につなげる。アミュプラザみやざきの街づくり

山﨑:
アミュプラザみやざきは2020年の11月にグランドオープンして、昨年11月に開業2周年を迎えました。
宮崎は中心市街地の来街者数は減少傾向にあり、それを活性化させたいという地元の方々の思いがありました。我々JR九州としても駅から賑わいを拡げて街につなげるという役割があると思っていますので、その思いが一致して開業に至ったという経緯があります。
またアミュプラザみやざきはJR九州だけではなく宮崎交通さんとの共同事業というのも特徴です。
宮崎以外のアミュプラザに行くと分かるのですが、基本的に駅前に建物がひとつある、いわゆる駅ビル型施設です。アミュプラザみやざきの場合は、駅直結の施設があって、駅の前に建物があって、道路を挟んでもう1つ建物あるという形で、駅ビルというよりも駅前にある複合開発という形になっています。

神津:
駅ビルとして駅の施設を活性化させるというよりも街全体を活性化する、その一翼を担いたい、という意味合いですね。

山﨑:
はい。JR九州としても住みたい、働きたい、訪れたい街づくりという思いがある中で、駅前だけではなく駅から広がるような街づくりを、地元の方も入ったプロジェクトという形で進めてきました。
2018年に開発の発表をした記者会見では、商業施設の開発ですが、事業社である宮崎交通さんと当社だけでなく、今回は街一体型のプロジェクトということで県知事や商工会議所の会長、宮崎市の副市長と一緒に開発発表を行いました。

■特徴的な宮崎の県民性

神津:
開業から2年経過して、来場されるお客様、また宮崎県民という大きなくくりでも良いのですが、なにか特徴といいますか、他の県とは違う?と感じたことはありますか。

山﨑:
私も九州の全ての県で働いたことがあるわけではないのですが、同じ九州でも県によって県民性が全く違うと感じています。当然のように宮崎も他の県とは違うところが多いと思っていて、その場所そこに住んでいる人たちに合ったマーケティング活動をしていかなければいけないと実感しているところです。

神津:
具体的にどのような特徴があるのですか。

山﨑:
宮崎県の1番の特徴は、他の都道府県からのアクセスに非常に高いハードルがあるということです。陸路だとお隣の鹿児島県も近いように見えて、2時間かかる。大分は3時間、福岡は4時間かかりますから、県の外に出るということ自体にハードルがあります。
あと民放のテレビ局が2局しかないのですね。これだけネットが広がっていますので、テレビ局が少なくてもあまり関係は無いのかなと最初は思っていたのですが、これが大いに関係があるんですね。マスメディアの影響力は大きいんだな、ということを改めて実感しました。例えば、東京や福岡で流行っている商品や人気の商品を持ってきて販売しても、結構知られてないことが多い印象を持っています。

神津:
東京や福岡の物産展を実施したり東京の有名店のスイーツを出店しても、他の県ほど大きな反応が最初からあるわけではないということですか。

山﨑:
商品にもよるとは思いますが、最近東京で流行ったものが宮崎の人にはまだ知られてないというパターンは多いと思います。やはりそれはテレビの放送で流れてくる情報量が少ないことが大きいのかな、と感じています。

神津:
ただ見方を変えればテレビより先に流行を発信することができる、アミュプラザみやざきが宮崎県の流行の発信基地になることができる、ということでもありますよね。

山﨑:
まさにそうですね。我々が流行を提案することの必要性は強く感じています。
実際にプレスリリースやSNSで発信した内容により、大きな反響があったものも多いです。

神津:
他にもなにか特徴はありますか。

山﨑:
県民性として、新しいものに対して興味はあるのですが、自分の知っている人がそれをどう評価しているか、近所の評判をとても気にするという特徴がありますね。アナログな口コミで広まるというのが1番影響力大きいのではないかと思っているんですよね。
例えば、我々は広場を駅前に持っているので、そこでいろいろなイベント、食のイベントなどを実施するのですが、宮崎県内の人気店を集めると、驚くほど集客することがあったりするんです。地元で評判の飲食店がイベントに出店するので実際に会いに来たという感覚というか。ただそこが人を集める大きなファクトになっているのは間違いないと思います。モノより人に会いに来る、ということですね。
ただ、他県のアミュプラザで地元のお店を集めたイベントをしてもそこまで盛り上がらないらしいです。それはそうですよね。わざわざイベントに行かなくても地元で普通に食べられるわけですから。そこに関して宮崎はかなり特徴的です。

神津:
知り合いが駅前のイベントに出店しているから会いに行ってみよう、という感覚なのですね。

山﨑:
モノより人という意識はファッションでも同じで、商品を紹介するとき、単にこういうお洋服がありますよという伝え方では魅力はなかなか伝わらないので、地元のFMパーソナリティの方たちに実際にお洋服を着てもらって紹介してもらうという取り組みをしていて、このように冊子化もしています。

神津:
この方たちはみんな地元ではもう知らない人はいないという感じなのですか。
 
山﨑:
そうですね。わざわざこの冊子をもらいに来店していただけるお客様も多いですし、掲載した商品がすぐ売り切れてしまうことも多いということで、かなり手ごたえを感じています。

神津:
Youtuberなどのインフルエンサーのように、この人が着ているとか、この人が紹介しているということがかなり大きな影響を与えているんですね。

上島: 
馴染みのある人が着ている親近感は大きいのかなと思っています。食べ物に関してもファッションに関しても、全国的に有名な人ではなく身近な地元の有名人、お友達のように親近感がある人からの口コミの方が影響は大きいと感じています。

山﨑:
また、食という切り口でいうと、やはり宮崎は農業県ですので、地元に安価で美味しい野菜やお肉が豊富にあるということで食に興味のある方は多いのかなと思っています。

神津:
地産地消の意識も強いのですか。

山﨑:
もともと他の県へのアクセスにハードルがある県ですので、特に意識をしていなくても結果的に地産地消している、という側面もあります。
実際、やま館にご出店いただいているスーパー「まつの」はお肉も野菜も宮崎県産が中心です。

■実はブルーオーシャン? 大きい宮崎県のポテンシャル

神津:
上島さんはよく東京にアミュプラザみやざきへの出店交渉で出張されることが多いとのことでしたが、その辺りで課題に感じることはありますか。

上島:
出店交渉をするブランドの方とお話をすると、そもそも宮崎に行ったことが一度もないという方がとても多いんですね。なので、まずは宮崎がどういうところなのか、というところから話を始めることになります。
また、そのブランドにとって宮崎県での初出店になるパターンが多く、これも高いハードルになります。これまで出店経験がない土地というのは流通面を含めてかなり不安がありますから。

神津:
宮崎に行ったことはないし初出店のハードルもある。そこを乗り越えて出店してもらうために、どんなような口説き文句というか、アプローチをされるのですか。

上島:
観光資源やプロ野球キャンプ・ゴルフなど大きなスポーツイベントも多いですので、そういうところを絡めて、今のタイミングで出店していただければ宮崎県の方だけではなくて全国のお客様にアプローチすることができることをPRしますね。あとはJR九州のグループ会社という強みを活かして九州各県アミュプラザのキャラバン形式の提案をすることもあります。

山﨑:
実は宮崎県の人口は100万人を超えているんです。宮崎市に限っても40万人なので 足元の条件はそれほど悪くないんですよね。
そのような中で、先ほど上島が説明したような理由で競合が後から入ってくることもあまり多いわけではないので、最初は時間がかかるかもしれないのですが、地元の方の認知が広まったら他に流れづらく、県内100万人を対象に独自ポジションを築ける。そういった理由でご出店していただけるということも多いです。

神津:
競合はいないのに実はお客様はたくさんいるブルーオーシャンという感じですね。宮崎県はクルマ社会ですので宮崎市内に限らず県内100万人の見込み客を独占できてしまうわけですから。そういう視点は面白いですね。気づきませんでした。

上島:
ブルーオーシャン、確かにそうですね。そういうこともあってか、実際に宮崎で新しく事業を始めるという方、結構いらっしゃるんですよね。

■今後チャレンジしたいこと

神津:
今後、地方から、また地方だからこそチャレンジしていきたいというようなことはありますか?

山﨑:
我々は商業施設なので、基本は地元の皆様に実際にご来店していただきご利用していただくということが1番だと思っているんです。
そのためにはやはり「人」、地元の人たちにもっともっと入っていく必要があると思っています。デジタルツールの活用も含めて、もっと宮崎の人たちに近づく、入り込むコミュニケーションが必要だと思っています。

神津:
宮崎の豊富な食資源などを活かしてデジタル経由で全国へ、ということも可能だと思うのですが、まずはそれよりも地元の人たちにもっと深く入り込んでいきたい、そして地元を活性化していきたい、ということなんですね。
上島さんはいかがですか。

上島:
ライブコマースやメタバースなどトライアルしてみたいデジタルテクノロジーはいくつかあるのですが、宮崎単体でやるというよりもグループ会社(JR九州)の強みを活かして九州全体の取り組みとしてトライしていきたいですね

■地方マーケティングの魅力とは

神津:
最後にTRUE MARKETING読者の皆様に向けて「地方でマーケティング活動を行うことの魅力や面白さ」について教えていただけますか。

山﨑:
そのことでずっと思っていることがありまして。例えば都会に行くと大きな商業施設は無数にありますよね。ルミネさん、アトレさん、ららぽーとさん、イオンモールさん・・・、ちょっと考えただけでもたくさん名前が出てきますよね。でも地方に行くとそんなに数は無いんです。以前大分にいた時に感じたことなのですが、大分のアミュプラザは大分県の中では規模が1番大きい商業施設で、集客力も1番あるところなのですね。そうなると、大分の人はアミュプラザが実施するイベントとか、どんなお店が新しく出店するとか、そういう情報を県内でターゲットになる、ほとんどの人が知っているんです。これは宮崎でも同じです。
東京だったら、いくら大きな商業施設であってもそんなことはないですよね。
そういった意味では地域の中での影響力というのはかなり大きいと思っていて、なかなかそういった仕事は東京では出来ないのではないかなと思っています。

地方でマーケティングの仕事をするということはそういうことなのかなと。全国に対しての影響力というのはなかなか一企業では作りづらいところがあるかもしれないですけれど、そのエリア(県内)に対しての影響力を高くするということは、これは商業施設に限らず他のいろいろな業種でも出来るのではないかなと思っていて、そういったところに面白さがあると思います。

神津:
トレンドや話題の発信をするポジションに立てて、県内のほとんどの人が知っているくらいの影響力がある。それはかなり魅力的ですね。
上島さんはいかがですか。

上島:
私自身のやりがいという視点でお話しますと、私が最初に配属されたのは博多の商業施設(アミュプラザ博多)なのですが、宮崎に来てみて、博多の時にこれが当たり前と思っていたことがかなり覆されることがあって、それくらい同じ九州といってもマーケティングの常識というのが変わってくるんです。これは複数のエリアを経験してそれを繋げていけば、それだけいろいろな違う発想を身につけることができるということですよね。これはマーケッターとしての個人的な成長という意味でもすごく大きいことですし、かなり魅力的に感じています。

アミュプラザみやざき公式HP

神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ストラテジックプランナー、リサーチャー。Webプロモーションの戦略立案、Web広告効果の分析・オプティマイズ、各種リサーチなどを担当。前職はマーケティングリサーチ会社にて主に広告効果の調査・分析・研究業務に従事。2004年より現職。
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