マーケティング戦略

【デザイン心理学】クレショフ効果とは?広告に用いられる映像や写真の解釈を効果的に誘導

【デザイン心理学】クレショフ効果とは?広告に用いられる映像や写真の解釈を効果的に誘導

皆さんの前に無表情の女性の写真があります。それを見る直前に、「高級ホテルのロビー」を見れば、女性は上品に、「工場の作業風景」を見れば真面目に、「育児のシーン」を見れば優しそうに見えるでしょう。このように、視覚情報の並びによって印象が変わる心理現象を「クレショフ効果」と呼びます。映画の編集技法として知られる一方で、近年は広告やWebデザイン、パッケージ開発などマーケティング分野でも注目されています。本記事では、クレショフ効果の概要から、実践的な活用方法までをわかりやすく解説します。

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クレショフ効果の定義と研究内容

クレショフ効果とは、同一の映像や画像でも、前後に配置される視覚情報によって、受け手の解釈や感情が変化する心理効果です。この効果は、ソビエト連邦の映画作家・映画理論家であるレフ・クレショフが提唱しました。彼の実験では、俳優の無表情な顔の映像を、異なる前景(スープ、棺、女性)と組み合わせて被験者に見せたところ、それぞれ異なる感情が読み取られました。

  • 1つ目のグループ:「スープが入った皿」の映像の後に無表情の映像を見ると、俳優が「空腹」の演技をしていると感じた。
  • 2つ目のグループ:「棺に入った遺体」の映像の後に無表情の映像を見ると、「悲観」の演技をしていると感じた。
  • 3つ目のグループ:「ソファに横たわる女性」の映像の後に無表情の映像を見ると、俳優が「欲望」の演技をしていると感じた。

このように、それぞれのグループで表情の認知が違ったのは、被験者が俳優の表情を、直前に表示された映像と関連付けて解釈したためだとされています。

クレショフ効果から分かる人間心理

このセクションでは、クレショフ効果の定義や研究を通じて明らかになる人間心理を紹介します。理解を深めることで、マーケティング戦略への具体的な活用ポイントが見えてきます。

提示された情報に意味を持たせる傾向

人は意味のない情報に対しても、無意識のうちに意味や感情を見出そうとします。これは「意味づけのバイアス」とも呼ばれ、クレショフ効果の核心的なメカニズムです。例えば、単なる無表情の人物画像に「新製品発表直前の社長」とキャプションをつけると、緊張感や威厳を読み取らせることができます。

前後のつながりを関連付けて解釈する傾向

人間の脳は、連続する情報の間に関係性を見つけようとします。映像や画像の並び順によって、受け手の解釈はまるで変わってきます。

例: 

「雨の中で立ち尽くす人」→「温かいコーヒー」:癒しと安心

「雨の中で立ち尽くす人」→「締め切られたオフィスのドア」:孤独と緊張

クレショフ効果のマーケティングへの応用

ブランディング広告

ブランドの価値観や世界観を視覚的に伝えるには、製品やサービスそのものだけでなく、それを取り巻く文脈の設計がカギになります。ブランディング広告とクレショフ効果の組み合わせはとても相性が良く、テレビCMなどでもよく見られます。例えば、アウトドア用品ブランドのCMでは、「山の夜明け+製品」→「挑戦・自然との調和」という印象を与える演出がなされています。

Webデザイン

Webサイト上では、ファーストビューの印象がユーザーの行動を左右します。クレショフ効果を活用し、情報を提示する順番を調整することで、感情に訴える構成が可能です。例えば、採用ページで「社員の笑顔」→「成長ストーリー動画」→「応募ボタン」という構成をとることで、安心感と共感が高まり応募率が向上するでしょう。

パッケージデザイン

商品パッケージは、消費者の最初の接点です。商品とパッケージの組み合わせにも、クレショフ効果を活用することが可能です。例えば、同じ化粧水でも、白を基調にした自然素材のパッケージだと、オーガニックで肌に優しい印象を受け、黒の高級感あるデザインだと、エイジングケアや高級な印象を受けます。

クレショフ効果の活用例

ブランドのポジティブな印象を与える広告

好感度の高い情景や人物とブランドを一緒に提示すると、視聴者はブランド自体にもその感情を投影します。例えば、飲料メーカーのCMで「親子の笑顔」「仲間との乾杯」といったシーンを重ねることで、ブランドに「親しみ」「楽しさ」を感じさせることができます。

商品の信頼性を高めるWebストーリーテリング

Web ページを魅力的にする具体例の一つに、ストーリーテリングの構成を利用した商品紹介コンテンツが挙げられます。例えば、クラウドファンディングの製品紹介ページで、「苦労した開発者の姿」→「完成品」→「笑顔のユーザー」と展開すると、信頼と感動が生まれやすくなります。

ストーリー性のある商品パッケージ

商品のバックグラウンドが想像できる画像は、商品の印象づくりに繋がるとともに、記憶にも残りやすく、競合との差別化につながります。例えば、チョコレートのパッケージに「カカオ農園の風景+子どもが喜ぶイラスト」を配置すると、自然派で家族に優しい印象を演出できます。

クレショフ効果のポイント

感情の余韻を次の情報につなげる構成にする

クレショフ効果では、文脈を活かして感情に訴えかけることができます。ユーザーの感情が高まったタイミングで次の情報に接触させると、より強い印象を残すことができます。例えば、ストーリー動画のラストに「感動のシーン」を配置し、そのまま「購入ページ」へ遷移させると、感情のピークで購買行動につなげやすくなります。最終的に視聴者をどこに導きたいのかを意識した構成にすることで、マーケティング戦略としての効果を最大化できるでしょう。

ユーザーの状況を設計に取り入れる

ターゲットが置かれている状況や心理状態を理解し、それに合った文脈設計を行うことが重要です。例えば、新生活を始める若年層向けに「引っ越し」「友達との時間」「新しい家具」といった文脈を組み合わせると、共感されやすくなります。コンテンツへの共感は、商品への興味を高め、長期的には購買意欲へとつながる可能性もあります。

クレショフ効果の注意点

ネガティブにも作用する

クレショフ効果は逆効果になることもあります。不安や不快な映像との組み合わせは、製品・ブランドへの悪印象を生む恐れがあります。例えば、高級感を伝えたい商品の近くに「混雑」や「汚れた場所」の写真を置くと、イメージが大きく損なわれる可能性があります。新しくユニークなブランドイメージを生み出したい場合でも、リスクを理解して慎重に行うことが重要です。

コンテキストの整合性に注意

映像やデザインに矛盾があると、ユーザーは違和感を覚え、信頼感を損ないます。文脈が破綻していないか慎重に設計する必要があります。例えば、若者向けのファッションブランドで、ターゲット層に合わない中高年のモデルを起用すると、ブランドとのミスマッチが生じる可能性があります。ターゲット層の嗜好や興味など、購買意欲の基盤となっているものをリサーチした上で、クレショフ効果を活用しましょう。

クレショフ効果のよくある質問(Q&A)

クレショフ効果はどのような場面で活用されていますか?

クレショフ効果は、映画や映像制作、広告、Webデザイン、パッケージデザインなど、視覚的な情報を扱うさまざまな分野で取り入れられています。特に、消費者の感情や印象を操作する必要があるマーケティング分野で効果的です。例えば、ECサイトの商品紹介で、同じ商品を「ユーザーが笑顔で使っている写真」と一緒に提示することで、オンライン上でも信頼感を与えることができます。

クレショフ効果とモンタージュ理論の関係は?

クレショフ効果は、モンタージュ理論の一部として位置づけられます。モンタージュ理論は、異なる映像を組み合わせることで新たな意味や感情を生み出す手法であり、クレショフ効果はその具体的な例として知られています。

クレショフ効果と文脈効果、プライミング効果との違いは?

クレショフ効果と文脈効果、プライミング効果は、いずれも前後の情報が人間の認知や行動に影響を与える点で共通していますが、対象やメカニズムに違いがあります。

  • クレショフ効果:前後の視覚情報の組み合わせによって、同じ映像や画像の解釈が変化する現象。
    例:「無表情の人物写真」+「災害の映像」→「悲しんでいるように見える」
  • 文脈効果:言語的または状況的な文脈により、情報の意味や受け取り方が変わる心理効果。
    例:「ライト」という単語が「光」にも「軽い」にもなるように、前後の文章が意味を左右する
  • プライミング効果:ある刺激が、後に提示される情報の認知や判断に無意識のうちに影響を与える現象。
    例:「健康」「自然」といった単語を事前に見せた後、オーガニック商品の購買意欲が高まる

まとめ

今回は、クレショフ効果の概要からマーケティングへの活用方法まで解説しました。人は情報を前後の文脈の中で意味づけし、感情をのせて受け取ります。そのため、商品写真や広告コピー、Webサイトの構成、パッケージのデザインに至るまで、「何と組み合わせて見せるか」によって、ユーザーの感じ方や行動は大きく変わります。クレショフ効果を理解し、意図的に文脈を設計することは、ブランドの世界観や価値を感情で伝えるマーケティングに欠かせない視点といえます。皆さんも、クレショフ効果をマーケティング設計に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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プロフィール
藤井翠
国際教養学部。 マーケティングに応用できる行動経済学や心理学の理論やフレームワークなどの解説記事を執筆。
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