【2025年最新】TAMとは?SAM・SOMとの違いや市場規模の算出方法を解説

新規事業を立ち上げるときや、スタートアップが投資家に向けてプレゼンを行うときに、必ずと言っていいほど登場する言葉がTAM(Total Addressable Market)です。
TAMは市場の大きさやビジネスの可能性を測るうえでの重要な指標であり、アイデアが本当に市場で受け入れられるかどうかを見極める出発点でもあります。
しかし、TAMはSAMやSOMといった関連用語と混同されやすく、実際にどのように使えばよいのか、どう算出すべきかを悩む人も多いでしょう。
この記事では、TAMの基本からSAM・SOMとの違い、具体的な算出方法や活用例まで、はじめての方にもわかりやすく解説します。
自社のビジネスがどれくらいの市場ポテンシャルを持っているかを正しく把握し、戦略設計に役立てたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
TAM(Total Addressable Market)とは?
TAMの定義と基本的な考え方
TAM(Total Addressable Market)とは、ある商品・サービスが獲得可能な理論上の最大市場規模を示す指標です。直訳すれば総アドレス可能市場であり、対象となる市場すべてをカバーしたと仮定したときに得られる売上総額を意味します。
たとえば、ある企業がオンライン英会話サービスを提供する場合、TAMは世界中の英会話学習ニーズを持つすべての人々に対する市場規模になります。ここでは競合や自社の提供能力といった制約は考慮せず、最大ポテンシャルに焦点を当てます。
TAMはアイデア段階のビジネスや、新規事業立案の場面で市場の魅力度を測る基準として使われることが多く、戦略的意思決定の出発点として重要な役割を果たします。
SAM・SOMとの違い
TAMとよく一緒に使われる指標として、SAM(Serviceable Available Market)およびSOM(Serviceable Obtainable Market)があります。それぞれの違いは以下の通りです。

- TAM(Total Addressable Market)
理論上の最大市場規模。競合や地域、技術などの制約を無視した全体の潜在市場。 - SAM(Serviceable Available Market)
TAMの中で、自社が提供可能な技術やサービスで実際にアプローチできる市場規模。 - SOM(Serviceable Obtainable Market)
SAMの中で、競合環境や営業力などを考慮し、実際に自社が獲得できると見込まれる市場規模。
このように、TAMは理論的な最大市場を示し、SAMやSOMはそれを現実的な範囲に落とし込んだものといえます。3つの指標をセットで理解することで、より戦略的かつ現実的な事業計画を立てることができます。
なぜTAMが重要なのか?
市場性のあるビジネスかどうかを判断できる
TAMを算出することで、そのビジネスが取り組むべき価値のある市場かどうかが見えてきます。市場が十分に大きければ、その分収益性や成長の可能性が広がります。逆にTAMが極端に小さい場合、事業として成立するかどうかの見極めにもなります。
アイデアの段階でTAMを把握することは、そもそもこの市場に参入する意味があるのか?という根本的な問いに答える重要なステップです。
投資家の信頼を得る指標になる
スタートアップや新規事業が資金調達を目指す際、TAMは投資家にとっての評価基準のひとつになります。将来的な市場規模が明確であれば、スケール可能なビジネスであると認識されやすく、投資リスクも低減できます。
そのため、説得力のあるTAMの提示は、ピッチ資料や事業計画書において欠かせない要素といえます。
事業の成長ポテンシャルを明確にできる
TAMは単なる市場サイズを表すだけでなく、将来の成長シナリオを描くベースにもなります。たとえば、SOM(短期的に獲得可能な市場)からスタートし、徐々にSAMやTAMに近づくというロードマップを作ることで、長期的な戦略が描きやすくなります。
今は小さな市場から始めるが、将来的にはこの規模の市場を狙っていくというストーリーを構築することが、戦略性と実現可能性のバランスを取るカギになります。
TAMの具体的な算出方法
トップダウンアプローチの手順
トップダウンアプローチは、統計データや業界レポートなどの外部データをもとにTAMを推定する手法です。以下のようなステップで行われます。

- 総人口や業界全体の売上などのマクロデータを取得
- 対象市場に該当するユーザー層やニーズを絞り込み
- 想定する平均単価や利用頻度を掛けて市場規模を算出
例えば、20代の日本人女性を対象とした化粧品市場のように、条件を絞りながらデータを組み合わせることでTAMを導き出します。
利点は算出がスピーディで全体感をつかみやすいことですが、仮定が多いために精度はやや粗くなる傾向があります。
ボトムアップアプローチの考え方
ボトムアップアプローチは、より現場に近い実績や行動データをもとに市場規模を積み上げる方法です。手順は以下の通りです。
- 自社の既存顧客数や平均売上単価を把握
- 潜在顧客の数を見積もり
- 利用率や成約率などをかけ合わせてTAMを算出
たとえば、月間平均顧客単価が3,000円で、潜在顧客数が100万人いるなら、TAMは3,000円 × 100万人 = 300億円となります。
この方法は実態に即した試算ができるため、説得力が高い一方で、詳細なデータや仮説構築が求められます。
バリュードライバー分析による算出例
バリュードライバー分析とは、ユーザーの価値創出要因(価値ドライバー)を細かく分解して、それぞれの要素から市場規模を逆算する方法です。特にSaaSやBtoBモデルなど、複数の条件が成約に影響する場合に有効です。
例えば、
- 月間利用料:10,000円
- 平均契約期間:12ヶ月
- 対象業界の企業数:10,000社
- 想定導入率:10%
といった要素をかけ合わせてTAMを計算します。
TAM = 10,000円 × 12ヶ月 × 10,000社 × 10% = 12億円
このように構造的に市場価値を試算することで、戦略的な価格設定やセールス計画とも整合性が取りやすくなります。
TAMを見積もる際の注意点
過大評価や机上の空論に注意
TAMを見積もる際に最も注意すべきなのは現実離れした過大評価です。市場全体を対象にすれば数百億円、数千億円という数字が出てくることもありますが、実際には自社が到達できない領域まで含んでいるケースが少なくありません。
このような過大なTAMは、一見魅力的に見えるものの、具体的な戦略に落とし込むと現実味に欠け、机上の空論として受け取られてしまいます。特に投資家や事業責任者に対しては、過度な期待感を与えるリスクがあるため、慎重に見積もる必要があります。
根拠となるデータや仮定を明示する
TAMを算出する際は、どんなデータを使ったかどのような前提で計算したかを明確にすることが重要です。出典が曖昧なデータや、極端な仮定をもとにした試算では、第三者からの信頼を得ることは難しくなります。
たとえば、業界団体の統計データ、政府の白書、市場調査会社のレポートなどを活用し、算出の過程とロジックを資料に明記しておくことで、透明性と説得力が格段に向上します。
TAMとSOMの混同を避ける
TAMは理論上の最大市場規模であるのに対し、SOMは実際に獲得可能と見込まれる市場規模です。この2つを混同すると、TAMがこれだけあるから、すぐにこれだけの売上が見込めるといった誤解を招く恐れがあります。
現実的な戦略立案や投資判断においては、SOMの精度がより重要になる場面も多く、TAMだけで判断するのは危険です。3つの指標(TAM、SAM、SOM)は目的に応じて適切に使い分けましょう。
TAMの活用で成功した事例
SaaS企業による市場拡大の事例
ある国内のSaaS企業は、最初に中小企業向けの経費精算ツールというニッチなSOMをターゲットに事業を開始しました。初期の段階では、経費精算に悩みを持つ1,000社を対象に営業活動を行い、地道に導入を進めていきました。
その後、TAMとして見積もっていたすべての業種における間接業務効率化市場に事業を拡大。請求書処理や勤怠管理など周辺機能を拡充し、より広範な企業ニーズに対応することで、累計導入社数を1万社以上に拡大することに成功しました。
このように、小さなSOMからスタートし、TAMに向けて段階的に事業を広げる戦略は、TAM活用の好例といえるでしょう。
ニッチ領域からグローバル展開への転換例
もう一つの事例は、医療系スタートアップのグローバル展開です。彼らは糖尿病患者向けの栄養指導アプリを開発し、最初は日本国内(SOM)における患者数とスマホ利用者に焦点を当ててTAMを見積もっていました。
アプリの利便性とデータ活用の仕組みが高く評価されたことをきっかけに、英語対応版をリリースし、米国・シンガポール市場へも進出。TAMをグローバルに再定義したことで、事業の成長可能性を大幅に広げることに成功しました。
このように、ニッチな市場で実績と信頼を積み上げたのち、TAMを拡張して新たな成長ステージへ進む戦略も、TAMの持つ指針的な役割を示しています。
TAMに関するよくある質問(Q&A)
Q.TAMが大きければ成功しやすいの?
A.必ずしもそうとは限りません。TAMが大きくても、実際にアクセスできる市場(SAMやSOM)が小さかったり、競合優位性がなかったりすると、ビジネスとしては成立しないこともあります。
重要なのは、自社の強みを活かせる明確なターゲット市場にアプローチできるかどうかです。TAMの大きさはあくまで“可能性”の指標であり、成功の保証ではありません。
Q.スタートアップにとってのTAMの使い方は?
A.スタートアップにとって、TAMは長期的なビジョンを描くために重要な概念です。初期フェーズではSOMに集中し、実績を積みながら徐々にSAM、TAMへと成長を目指すというステップを計画的に描くことで、説得力のある成長ストーリーを提示できます。
また、TAMを活用して自社がどれだけスケールできる可能性を持っているかを投資家に伝える材料にもなります。
Q.TAMとSAM・SOMはどう組み合わせればいい?
A.TAM・SAM・SOMはセットで使うことで、それぞれの指標の意味が明確になります。
- TAM:理論的に到達可能な最大市場(市場の魅力を示す)
- SAM:自社が提供可能なサービスで狙える範囲(ターゲットの明確化)
- SOM:実際に短期で獲得可能と見込まれる市場(戦術・実行レベル)
この3段階を使って、ビジョン → 戦略 → 戦術の流れを整理することで、事業計画全体に一貫性と現実味を持たせることができます。
まとめ
TAM(Total Addressable Market)は、単なる大きな市場の数字ではなく、事業の将来性や投資価値を判断するための出発点です。
TAM、SAM、SOMという3つの指標を使い分けることで、ビジネスの全体像から足元の戦略まで、立体的に把握できるようになります。
また、TAMを見積もる際は、現実的な仮定と信頼できるデータに基づいて慎重に評価し、なぜその数字になるのかを説明できることが重要です。 本記事で紹介したように、TAMをうまく活用すれば、市場性の見極めや成長戦略の設計、資金調達の説得力向上にもつながります。
あなたのビジネスが次のステージへ進むためにも、TAMというフレームワークを正しく理解し、実践に役立ててみてください。