Z世代トレンドラボ

生理をもっと過ごしやすく。「職場のロリエ」に込められた社会とブランドへの想い

2025.06.03Gen Z Lab
生理をもっと過ごしやすく。「職場のロリエ」に込められた社会とブランドへの想い

「10年後、生理用品が学校にも会社にも「備品」として当たり前に置かれている社会を作っていきたいです」

花王の生理用品ブランド「ロリエ」。長年女性に寄り添ってきた同ブランドが、近年「職場のロリエ」という画期的なプロジェクトで注目を集めています。その活動の先にある未来像を、サニタリー事業部ロリエのブランドマネージャーの加藤安友実さんはこう語ります。

商品販売に留まらず、社会課題の解決を目指すこの取り組みはどのように生まれ、展開されてきたのでしょうか。
神津洋幸(GMO NIKKO TRUE MARKETING副編集長/Z世代トレンドラボ主任研究員/ストラテジックプランナー)と平井かのん(ショートムービーグループ プランナー/Z世代トレンドラボ研究員)が話を伺いました。

物を重視するマーケティングからコミュニケーションを重視するマーケティングへ

神津:
加藤さんは新卒で花王に入社したのですか?

加藤:
はい。2005年に入社して、今年でちょうど社会人20年目を迎えました。4月から新入社員がうちのチームにも配属されたんですが、20歳も違うのかと思い驚いています(笑)。

入社後は販売部門に7年間在籍した後、どうしてもマーケティングを担当したいと思い、8年目に手を挙げてマーケティング部門に異動しました。

マーケティング部門ではアタックやニュービーズなどの衣料用洗剤を経験した後、ホームケア用品(マジックリンやクイックルワイパーなど)を7年間担当しました。そして、2025年1月1日からサニタリー事業部に配属され、ロリエを担当することとなったんです

神津:
マーケティングのキャリアの中では、ホームケア商品をもっとも長く担当してきたのですね。ホームケア用品とサニタリー用品とは、マーケティング戦略上の違いはあるのですか?

加藤:
方向性が大きく異なると思います。
ホームケア用品の場合、『バスマジックリン エアジェット』や『トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック』など、次々と新商品を出してきました。これは容器や剤で差別化ができるカテゴリー特性があるためです。

一方、サニタリー用品はもちろん商品も大切ですが、お客様とのボンディング=信頼関係づくりや共感を得るためのマーケティング戦略がより重要になります。これは見た目の差別化が難しいことや、一度決めた商品から移りにくい特性があるためです。

どちらもブランディングは重要ですが、ホームケア用品は物(プロダクト)を重視する、サニタリー用品はお客様との関係づくりをより重視するというのが、大きな違いだと思います

神津:
サニタリー用品は商品自体の性能だけで競うだけではなく、商品に対する想いで共感を呼んでいく戦略が重要なのですね。方向性が異なる事業部に異動して、戸惑いはありませんでしたか?

加藤:
ありました!

前述のとおり、お客様からの”共感”を重視するマーケティングは市場の需要に応える新商品をどんどん提案するホームケア用品とは異なるので、戸惑いつつも新しい視点でのマーケティングにチャレンジできていることに、毎日すごくワクワクしています。

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ブランドパーパスを体現する「職場のロリエ」プロジェクト

神津:
「共感」は、今回お伺いする「職場のロリエ」プロジェクトでも重要なキーワードなのだと思います。改めて、「職場のロリエ」の概要について教えてください。

加藤:
ロリエは、女性にとって過ごしやすい社会を作ることをブランドパーパスに置いて活動しています。この考えに基づいて商品開発やさまざまな活動を行っているのですが、その活動のひとつが「職場のロリエ」です。

「職場のロリエ」は、導入企業様に専用のボックスを提供します。そして、ボックスに生理用品を入れてトイレに置いていただくことで、社員の皆さんに提供するという仕組みです。生理用品は別途購入いただきますが、そこでの売上はあまり期待していません。それよりも、生理で困っている人を一人でも減らしたいという想いで活動しています。

「職場のロリエ」の活動には、大きく2つの意味があると考えています。

まずは、生理期間を過ごす社員の皆様をサポートすること。そして、この取り組みを通じて社員の方々が、「こんなサポートをしてくれるなんて(導入企業は)良い会社だな」と思っていただくことです。実際に、「職場のロリエ」の導入企業様から、「社員のロイヤリティが高まった」という声もいただいています。

そしてそれらのことが結果として当社が掲げるブランドパーパスの体現につながっているのです。

神津:
社員の皆さんが助かるだけでなく、導入企業のブランドイメージ向上にもつながるのですね。「職場のロリエ」プロジェクトはどのような経緯で誕生したのですか?

加藤:
スタートは若手社員へのアンケートでした。「女性の生理の悩みを解決できる活動をしたい」と考えたとき、まずは一番困っている人の話を聞こうと思いました。そこで白羽の矢が立ったのが、若手社員だったんです。

入社1〜3年目の社員は一日の時間の使い方の決定権が自身になく、忙しい時は自分の行きたいタイミングでトイレ休憩をとることさえも難しい現状があります。そう考えて彼女たちに困り事を聞いたところ、生理に関するさまざまな悩み事を打ち明けてくれました。

「生理のタイミングでトイレで(ナプキンを)替える時間がない」
「ナプキンを持っていないタイミングで生理が急に来てしまった」

その後、500人規模の調査を行ったところ、同じ悩みを抱えている女性が多いことがわかりました。この問題を解決したいと検討を重ねた結果、「職場のロリエ」へたどり着いたんです

平井:
手ぶらでトイレに行っても大丈夫というのは、すごく安心感があります。会議や打ち合わせが立て込んだとき、一度ナプキンを取りに行ってトイレに行くというのはなかなか大変なので……。

神津:
「職場のロリエ」は現在、何社が導入しているのですか?

加藤:
2025年4月時点で380社様に導入いただいています。今年の目標が500社なのですが、年初からすでに80社ほど増えていますね。(追記:2025年5月時点で400社を超える企業が導入)

神津:
今年に入ってからの伸びがすごいですね!

加藤:
好調に推移している背景は、PRできる機会を多くいただいたことで、認知が拡大してきたことが挙げられます。

また、花王社内で手を挙げてくれた「職場のロリエ 社内アンバサダー」が、パートナーや知り合いに広めてくれているのも大きいです
働きやすい職場づくりに挑む!花王若手社員の熱い想い—仕事中の生理の悩み

神津:
草の根的な活動にも取り組んでいるのですね。

加藤:
メディアを通じてこの活動の認知を広げていくことも重要なのですが、やはり知り合いから紹介される方が導入の後押しになると思ったんです。

チームの若手メンバーがアイディアを出して社内で募集したんですが、最初は「100人集まればいいね」と話していました。それが、蓋を開けたら590人も集まってくれて。結果として幅広い草の根活動ができるようになりました。

「無理をしない」ブランドコミュニケーションの変化

神津:
「職場のロリエ」の取り組みと並行して、ロリエそのもののブランドコミュニケーションも変化している印象があります。

二階堂ふみさんを起用したCMも、従来の広告とはトーンが違いますよね。
花王 ロリエ 「もちふわ誕生」篇 30秒 CM 二階堂ふみ

加藤:
これまでの生理用品のCMは、白いパンツを履いた女性が「生理でもハッピーに」「自分らしく輝く」など、「生理を乗り越えよう」というメッセージが強かったと思います。

神津:
言われてみれば、昔の生理用品のCMは生理でも普段と変わらずアクティブに活動する女性像が強調されていました。

加藤:
このCMにはポジティブな側面がある一方、ある種の“呪縛”でもあったなと。メッセージの裏に、「生理でも頑張らなきゃいけない」という言葉が内包されていた気がするんです。

二階堂ふみさんを起用したCMでは、「生理のときは無理をしなくていいんだよ」というメッセージを伝えたかったんです。そして、メッセージだけではなく、活動として、「職場のロリエ」を提案したいと考えました。

神津:
生理に悩む女性に寄り添うという、ブランドメッセージを強く押し出したCMだったのですね。CM以降、周囲のロリエに対する印象に変化はありましたか?

加藤:
「女性のことを一番理解してくれているブランド」で1位に選んでいただくなど、私たちが「こう見られたい」と思って目指している理想像を少しずつ実現できている実感があります。(2023年花王調べ)

また、先日は朝の情報番組の街頭インタビューで「職場のロリエ」を紹介してくれた方がいました。一般の方々にも私たちの活動が広まりつつあることを確信し、とても嬉しかったです。

実際に、「職場のロリエ」をご存知の方々のロリエに対する好意度は、知らない方々と比べて約10ポイント高いという調査結果も得られています。(2024年花王調べ)こうした数字からも、少しずつロリエに対する共感が広まっていることを実感します。

若年層に選ばれるブランドとなるために

神津:
生理用品は一度その商品を使うと、ブランドスイッチすることが少ないカテゴリーだと聞いたことがあります。女性、特に若い世代の「最初のブランド」としてロリエが選ばれるような取り組みは、何か行っているのでしょうか?

加藤:
おっしゃるとおりで、生理用品はホームケア用品とは違い、最初の購入が20年後、30年後の購入までつながるカテゴリーです。その背景には、「商品を変えて失敗したらどうしよう」という不安が根強いという商品特性があります。

そこで、私たちが取り組み始めているのが「学校のロリエ」という活動で、「職場のロリエ」と同じボックスを、学校でも導入いただいています。

初経を迎えて生理が安定していない子どもたちにとって、生理はいつ訪れるかわかりません。

センシティブな時期だからこそ、学校にナプキンがあって気軽に使える状況を作り出すことが、とても大事だなと思っています。その根底には、「若い世代の生理をサポートしたい」という気持ちがあります。それと同時に、「あのときロリエが助けてくれた」という記憶から、ロリエに好感を持ってくれる若い女性が増えたら嬉しいです。

また、これまであまりアプローチしてこれなかった20代に選ばれるものづくりにも挑戦しています。昨年秋には『ロリエ しあわせ素肌 もちふわフィット』という、若年層に向けた商品も作らせていただきました。

おかげで、最近のお客様の増加率を見ると、全世代を通じて20代のお客様がもっとも多く増えています。「ロリエっていいよね」という共感のベースを作りつつ、若い女性向けの商品を出していく。このかけ算で、今後もアプローチを続けていきたいですね。

平井:
私は高校も大学も女子校だったので、生理になってもオープンにナプキンが置いてあるのが当たり前の日常を過ごしていました。でも、共学なら同じように生理について発言することは難しいと思います。

「学校のロリエ」は、生理に関する発言をしやすくなる環境づくりになると感じました。勉強や部活動中の生理で不安を感じる場面が多い中でも、ロリエがあることで集中できるというのは、学生さんにとってもありがたいことなのかなと。

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加藤:
ありがとうございます。

今の生理用品は、ロリエをはじめ、各社とも非常に高品質で、コモディティ化も進んでいます。ときおり新しいコンセプトの商品が発売され話題になっても、8割の女性がいままで使っていたナプキンを使用しているのが現状です。

この状況下で、どうすればZ世代やそれよりも若い世代に振り向いてもらえるのかが、私たちにとって大きな課題でもあります

神津:
その課題へのひとつの解答が、寄り添い・共感する、というコミュニケーションなのだと感じました。そのうえで、各世代に合った寄り添い方を模索していくことが重要なのかもしれませんね。

加藤:
商品に求められる機能はほぼ100%満たされている状態で、若い世代に「あなたのための商品なんだよ」というストーリーをどう作るかがカギだと思っています。

生理について考えることが当たり前の社会へ

神津:
共感の軸探しについて、私はZ世代トレンドラボを通じて若い世代のリアルを目の当たりにしているのですが、Z世代の価値観は私たちの学生時代とはまるで異なると感じています。

加藤:
同感です。例えば、Z世代はSDGsへの意識が高いと言われますよね。私もそれを感じますが、真面目にSDGsを突き詰めるというよりも、ファッション的な要素を織り交ぜて無理なく取り組んでいる印象があります。

例えば、「職場のロリエ」のボックスにはベビー用紙おむつのメリーズの製造工程で生まれる端材が使用されているんです(2025年5月ご提供分より順次切り替え)。生理用品は消耗品で、最終的にはゴミになってしまいます。そこがベースにあるからこそ、端材を活用するということで環境へ配慮したい想いがあります。

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平井:
日常生活に欠かせない消耗品が、リサイクルやサステナブルな取り組みにつながっている。その情緒的なプラスの側面は、商品を選ぶ理由に十分つながると思います。

情緒面で付け加えるとすれば、Z世代は「持っていることで気分が上がる」という感覚を大事にしている気がします。いい匂いがするとかパッケージが可愛いとか、そういう訴求は共感につながると思うんです。

加藤:
なるほど。

私たちも、生理用品を「持っていて恥ずかしくないもの」という状況を作りたいんです。女性向けメディアではよく、「〇〇さんのカバンの中身」といった特集が組まれます。ここで当たり前のように、生理用品がカバンから出てきて紹介される状態も目指せるとよいかもしれませんね。

平井:
その未来、ぜひ来てほしいです!あと、個人的には男性がもっと気軽に生理用品を買える未来も来てほしいと思います。

加藤:
台湾ではすでに、生理そのものをタブー視しない環境になっているようですね。男性のパートナーに、自然と「生理用品を買って来て」と頼めるみたいな。

日本ではまだまだ、生理に対するタブー視が根強いと感じます。女性はPMS(月経前症候群)を含めて、生理期間を中心に体調の悪い期間がとても長い。この事実を知ってもらうだけでも女性はもっと過ごしやすくなると思います。

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神津:
女性が生理と無理なく付き合える社会を目指す上では、性別や年齢を問わず、すべての人の理解促進が重要になってきますよね。

加藤:
「職場のロリエ」を導入していただいた企業様には、同時に生理について学べる動画をお送りしています。動画を見た男性からは、「女性の身体ってこんなことが起きているんだと知りました」など、さまざまな反応をいただいています。

「動画をきっかけに、周りのメンバーに生理休暇の存在を周知していきたいと思いました」というコメントもありました。「職場のロリエ」を通じて、男性にこれまでとは違う視点で生理のことを伝えられていることは、とても嬉しいです。

一方で、生理に関する啓蒙は慎重に進める必要があるとも思っています。

デリケートなテーマだからこそ、性別を問わず誰もが傷つかない形で生理を理解できるきっかけを、どうすれば提供できるかしっかり考えたいです。1社だけでできる取り組みではないと思うので、さまざまな専門家とうまく連携を図りながら、よりよいアプローチ方法を見つけたいですね。

神津:
今後の展開がますます楽しみです。最後に、これまでの取り組みを踏まえてロリエや加藤さん自身の今後の目標・展望について聞かせていただけますか?

加藤:
10年後、生理用品が学校にも会社にも「備品」として当たり前に置かれている社会を作っていきたいです。その上で、これからの未来を作る若い世代の方々とちゃんと向き合い、そして選ばれるブランドになっていきたいですね。

今は「職場のロリエ」を中心に活動していますが、女性が過ごしやすくなるための取り組みは、他にもたくさんあると思っています。これから500社の導入企業様を目指す過程で、もうひとつ別の軸で女性を支える活動を増やしていきたいです。

私自身、ロリエを担当することで「パーパスドリブンなマーケティング活動」をちゃんと理解できた気がします。

モノを起点とするのではなく、お客様にとって過ごしやすい社会を考え実践することで、結果として商品を選んでいただく。この過程がとても楽しいです。どんな事業を担当することになっても、この活動で得た思考回路を活かして、今までとは違うマーケティング活動ができる気がしています。

神津:
ひとつの商品を販売していくメーカーの取り組みが、社会課題解決にもつながっていく。とても意義深いことだなと感じました。10年後、ロリエがどのような世界観を築き上げているのかとても楽しみです。

神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
TRUE MARKETING副編集長
Z世代トレンドラボ主任研究員
ストラテジックプランナー、リサーチャーとしてWebプロモーションの戦略立案、各種リサーチなどを担当。
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