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高い目標で80点を狙う。ピップグループ初代CMO久保田氏流マーケティング発想

2022.01.20Premium Contents
高い目標で80点を狙う。ピップグループ初代CMO久保田氏流マーケティング発想

(右)ピップ株式会社 取締役 商品開発事業本部長 兼 フジモトHD株式会社 執行役員 CMO 久保田 達之助氏
(左)GMO NIKKO 広告事業本部 マーケティングソリューション エグゼクティブマネージャー五十嵐 慧

尖った発想のバックボーン

五十嵐::久保田さんは2018年にピップグループのCMOに就任されましたが、それまでのキャリアを教えていただけますか?

久保田::どこから話しましょうか?

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五十嵐::どこからでも大丈夫です。

久保田::私は高校生の頃からテレビドラマ好きで、特にあの頃のピュアな月9が大好きでした。

五十嵐::そこがキャリアのルーツなんですね。

久保田::はい(笑)。そして高2の夏になって進路を考えるとき、人の心をこんなにも動かすドラマの仕事って素敵だなと思ってテレビ局を目指すことにしました。
でもそのためには良い大学に入らなければならないので、それまで高校を卒業したら就職をすることも考えていたのですが、テレビ局に入るという高い目標をあえて設定し、そこから受験のために猛勉強を始めました。

大学に入ってからは4年間ずっとテレビ局で報道のアルバイトをしていました。その時はドラマ班ではアルバイトを募集していなかったんです。
そして4年生の時に就職試験を受けたのですが、テレビ局は見事全滅しまして。さすがにショックだったのですが留年もしていられないということで受けたのがJTBでした。
旅も人に感動を与えるという意味ではエンターテイメントかなと思って、なら日本で一番大きな旅行会社に入ってやろうと、そんな考えでした。

JTBに入ってからは、縁あって芸能事務所の海外出張手配をしたのをきっかけに、ファンクラブツアーやコンサートの全国ツアーコーディネートなど、旅行会社にいながらエンタメの世界にどっぷりと浸かっていました。

五十嵐::その後、ドクターシーラボという全く別の畑のお仕事に移られたわけですが、きっかけは何だったのですか?

久保田::JTBで事業開発部長をやっていた時、JTB×ドクターシーラボでコラボしてトラベルコスメを開発したのがきっかけですね。
ある時、ドクターシーラボの社長とご飯を食べていてマーケティングの話になったのですが、その中で社長が「マーケティングは4Pが重要なので、本当にマーケティングをやりたいんだったらメーカーに入らないとできないよ」と話されて、なるほど言われてみたらそうだなと納得していたら「うちに来なよ、尖った人好きだから」と。

そしていきなり取締役マーケティング部長で入ったわけです。でも女性のマーケティングというのが初めてだったので、非常に難しかったですね。

五十嵐::久保田さんのそれまでの経験をもってしても、ですか。

久保田::男の自分には女性の気持ちがなかなか分からないので難しかったですね。社長は女性なのですが「女性のマーケティングは『何となくマーケティング』だから」とよく言われていました。
あと、マーケティングの世界だけを考えると「女性って浮気性なんだな」と思いましたね。

五十嵐::それはブランドに対してですか?

久保田::はい。良いものが出ると簡単に浮気して、他の商品に行ってしまうし、おすすめされたからちょっとサンプル使ってみようかとか。逆に男性はこれと決めるとある程度こだわって使ってくれるんですよ。

五十嵐::確かに。

久保田::その浮気性の女性をどうやって浮気させないようにするか?みたいな発想で常にマーケティングを考えていました。
そして、どんなタイミングでどんなメッセージを出せば女性に振り向いてもらえるのか?をずっと考えているうちに「これは恋愛と一緒だな」という答えに行き着きました。考えれば考えるほど「これ恋愛だ」と思って。だからターゲットの女性の方とどう恋愛するかをずっと考えていましたね。

そんなことをやっているうちに、今度はヘッドハントの会社から連絡をいただいて、ピップの社長が会いたいと言っているということで一度お話を聞いてみようかなと。やっぱりマーケターなので好奇心があるじゃないですか。

ピップは創業110年を超えるとても歴史ある会社なんですが、お話を聞いてみると消費者起点のマーケティングカンパニーにしたいけど思うようにうまくいかないということに悩んでいました。メーカーという構造上、消費者起点のマーケティングを実現するのが非常に難しいと。それで私の経歴を調べたらちょっと尖っていて、こういう人が来ないと多分変わらないというところで、社長自らヘッドハンティングをしたとのことでした。

その2日後に会長ともお会いしたのですが、会社を変えたいと本気で思っていることが伝わってきたんですね。110年続いている会社でも、115年目には潰れるかもしれないという危機感を持っていました。今の消費者たちの気持ちをしっかり汲んで商品を作っていかないと厳しいよね、という発想をトップが一番強く持っていたんです。

五十嵐::会長さんご自身が危機感を強く感じてらしたんですね。

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久保田::有名企業のトップ2人から、一緒に会社を180度変えていきたいみたいな話をされたら結構心が動いてしまって。日用品、日用雑貨という過去経験がない商材だからこそ、旅行会社や化粧品会社で培ったものを投入したら何か面白いことができるんじゃないかなって。

五十嵐::現職に就いてまず最初に手をつけたことは何ですか?

久保田::まず現場で何が起きているのかを知りたくて、いろいろな主要部署の人たちに「新しく入った久保田ですけど1時間ぐらいお話聞かせていただけないですか」とメールでお願いして、北は北海道から南は九州まで、工場や研究所、物流センターまでいろんなところ、様々なレイヤーの人たちに話を聞きに行きました。

やっぱり現場の話が一番聞きたかったんです。それをまとめて社長と会長に今こういう課題感を持っているとプレゼンテーションをして、その課題感をどう埋めるかを提案しました。

例えば起案の決裁についてですが、今までは役員会にかけるとなると現場が資料を大量に作っていたんです。でもそれってほんと無駄だなと思って。1枚に何をやりたいかと、消費者までのストーリーがあれば、そのストーリーがワクワクするか、行けそうだと思うかが一番重要なので、あとはみんな任せるよって感じの運営にしました。

五十嵐::かなり大きな変化ですね。

久保田::古い会社とベンチャーとの体質の違いってどれだけシンプルに削ぎ落としていくかだと思うんです。そこを私が入って変えていきました。

あとやっぱりピップにきて一番最初に思ったのはPRが下手だなということですね。化粧品会社のPRとはレベルが違い過ぎました。そもそもPR担当がいなかったんですね。

五十嵐::え、そうなんですか?

久保田::はい。宣伝部の中に少しだけ手を動かす人がいて、あとはPR会社に出して終わり。これでPRをやっているっていう意識で、ハングリー性が全くないんですね。化粧品会社のPRだと出版社やテレビ局を何件もまわって、何とかして出してくださいって、それはもうほとんど営業だと私は思っていたので、そのギャップには驚きました。

これでは無理だと社長に最初に言いましたね。まずは小さくてもやっていきたいと営業バリバリの勢いある方を採用しました。それからはPRも上手く回り始めたので今は新卒でPR人材を生え抜きで育てています。

どうしても新卒を採りたかった理由はもう1つあって、若い子のほうがデジタルネイティブなんですよ。スリムウォークは、20歳ぐらいの子に買っていただきたいので、ターゲットに刺さるデジタルメディアやコンテンツを自分でも使っていて欲しいんです。そういう子たちからどんどん話を聞きたいし、もう思いどおりの感覚でやってもらいたいっていう、期待感があります。今までの古い会社の考え方は、ピラミッドになってて、上の人の方が経験があるから全ての仕事ができるって発想だと思うんですが、デジタルの世界は逆ピラミッドだと思っていて、一番下のそれこそ大学生のほうがずっと多くを知っています。

例えばPR用の動画を作ってください、明日までにお願いねって言ったら「あ、分かりました。明日まででいいんですか?」って、スマホで動画撮ってそれをi-Movieで編集して、オリジナルの音源使って、「こんなのでいいですか?」って速攻でやってくれるんですよね。学生のデジタルの力は大学で講義を持っている中でまざまざと感じています。

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ピップの強み

五十嵐::明治41年に創業されてから100年以上続いているピップならではの強みはどんなところにありますか?

久保田:: オーナー企業の特徴だと思うのですが、理念に対するこだわりがすごくあります。THE WELLNESS COMPANYは絶対ブレさせないっていう意志とか。あとは「身心ともに健康」という言葉。普通は心身と書くのが、これは「身」が先だという会長のこだわりで、やはり体が良くなかったら心も宿らないよねっていう考え方です。

あとは一番大事なのは品質。品質へのこだわりはもう半端ではないです。常に品質のことを考えています。いくら良いPRをしても品質が悪いと結局2回目はないですから。
私たちのお客様相談室には良いこと悪いこと含めたくさんのお声をいつもいただいているのですが、それを月に1回、社長、会長、私と、お客様相談室長で、全部の話を聞いて、対策を話し合います。

五十嵐::お客様の声をとても大事にされているのですね。

久保田::お客様と品質を常に大事に考え、嫌なことを自ら聞くトップがいるのは、やっぱりメーカーとしては一番良いことだと思います。

五十嵐::お客様の声から目をそむけないというスタンスですね。

久保田::それが110年続いている、その逃げないスタイルがこの会社の強みだと思います。
あとは良い人が多い。ガツガツ系ではなく、どちらかいうと和を保つ人たちがすごく多いので、居心地は多分すごく良いんだろうなと思っています。福利厚生も素晴らしくて、古い会社なので家族みたいな、温かみがある気がします。

ピップの未来像

五十嵐::久保田さんの次のビジョンを教えていただけますか?

久保田::本当にたくさんあるのですが、まずは2025年を1つのキーとして捉えています。2025(年)のメーカー事業としてのあるべき姿を考えていて、結果、例えば今の売上の3倍くらいはいこうね、とか、健康企業=ピップって必ず言われるようになろうね、といったことを考えています。
また、これは遊び心なんですけれど、就職企業ランキングとか大学生が対象のどんなランキングでも300位以内に入りたいなと思っています。

五十嵐::それは 久保田さんらしい目標ですね。

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久保田::なぜかというと、大学生は外からしか企業を見ることができないので、勢いのある企業だったり、メディアに露出されているとか、給料や福利厚生が良いとか、あるいは人が良いとか、いい会社だなって思われる要素の何かが強くないと人気ランキングには入らないので。そのためにもっと頑張って給料を高くしようとか、もっとPRを広げていこう、みたいなそういう枠組みにしていこうという発想です。

五十嵐::確かに企業を図る一つの指標になりますね。

久保田::私らしさもあるじゃないですか、大学生というところで。で、そこからバックキャスティングで、2024年にはこんなことしないといけない、2023年にはそんなことしなきゃいけない、22年には・・・と考えています。

ただ、コロナが来てしまって思いどおりにいかないところもありますがその夢は必ず達成するっていう強い意志を持っています。
あえて高い目標を設定することで尖ったことにチャレンジしていく、結果80点を狙う、という発想です。

五十嵐::ありがとうございます。これからピップさんからどんなニュースが出てくるのか楽しみです。今回はインタビューにご協力いただきありがとうございました!

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ピップ株式会社 取締役 商品開発事業本部長 兼 フジモトHD株式会社 執行役員 CMO 久保田 達之助氏
1963年9月17日生まれ。東京出身。

明治大学情報コミュニケーション学部兼任講師。
明治大学政治経済学部経済学科卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。
大手旅行会社で事業開発部長、大手化粧品会社で取締役マーケティング部長兼海外戦略部長を務め、
2018年6月にフジモトHD株式会社のCMOに就任。
2019年11月からはピップ株式会社 取締役 商品開発事業本部長として、メーカー部門の製造・販売部門も統括。
明治大学で実践的なマーケティングに関するゼミ、講義を担当しており、マーケティング人材の育成にも尽力している。

ライター:五十嵐 慧 (いがらし けい)
2007年に入社。入社からメーカー系のクライアント様を中心にリスティング・SNS・動画:リアルメディアなど、あらゆる手法でこれまで数多くのデジタルプロモーションを支援。近年は採用・育成・コミュニケーション支援など「働く」のフレームワーク構築にも従事している。
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