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テレビCM放映前に最高到達点を実現するために

2024.04.18Premium Contents
テレビCM放映前に最高到達点を実現するために

(左)GMOプレイアド株式会社 代表取締役社長 冨岡信之
(右)株式会社CMI 代表取締役 田中陽樹

 テレビCMは企業のマーケティング予算の中でも大きな比率を占めるにも関わらず、広告主側にはノウハウが蓄積されずに、価格の正当性や、放映枠の良し悪しの判断が困難であることが常態化しているといいます。この現状を解決するため、日本を代表する広告代理店である電通を経て、The Breakthrough Company GO(以下、GO)時代に立ち上げた日本初のインハウス型TVCMツール「CM in-house(CMインハウス)」(以下、CMインハウス)と共に独立した株式会社CMIの代表取締役田中 陽樹さんに、CM制作工程をDXするチェックバックツール「PlayAds byGMO(以下、PlayAds)」を提供するGMOプレイアド 代表取締役社長 冨岡がお話を伺いました。

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テレビCMの透明性を示し、スタートアップ・ベンチャー企業が挑戦する敷居を下げる

冨岡:
「CMインハウス」立ち上げの背景について改めて伺えますか。

田中:
「CMインハウス」を立ち上げた背景には、電通での経験と、GO時代のスタートアップやベンチャー企業との関わりが大きく関係しています。広告予算が潤沢な大手企業がクライアントだった電通時代に対して、GOはファンドをやっていたこともあり、スタートアップやベンチャー企業とのお付き合いが多くなりました。そして、テレビCM出稿に対する敷居の高さを感じている企業が多くありました。さらに、自分たちの会社の規模感だと、いざ出稿する際「いい担当者をつけてもらえないのではないか」という先入観を持たれて、敬遠されていました。しかし、特にBtoCのサービスは一気に認知施策を畳み掛けることによって、競合に圧倒的な差をつけて業界のトップに踊り出るということが可能です。それをテレビCMで実現した企業は沢山あります。

僕はクラウドファンディング「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」の一番始めのテレビCMを担当させていただいたのですが、その他のクラウドファンディングに先駆けてテレビCMに取り組んだことで圧倒的に成長して、業界トップになっています。メルカリさんも同じことが言えると思います。

全ての企業がテレビCMをやるべきだとは全く思いませんが、活用することによって大きく成長できる可能性がある企業に、テレビCMを透明性高く、わかりやすく提供したい。けれどそういうサービスを提供している会社が他にないからやろう、と思ったのが「CMインハウス」を開発する最初のきっかけでした。

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例えば飲食店であれば原材料の仕入れ値を徹底して管理しているのに、広告費で最も費用がかかるテレビCMにいくらかけているのか、広告主が管理できないという仕組みが時代に合っていないと思ったので、当たり前に必要なものを作ったくらいの気持ちでいます。

今もなお、テレビCMの出稿データはPDFやExcelにまとめられてメールで渡されていたりします。広告代理店によって納品フォーマットもバラバラで、見づらく、ファイル管理なのでデータの所在もわかりにくいという。それをしっかり組織で管理して共有していこうということなので、むしろ今までなんでなかったのだろうと思います。

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冨岡:
企業によっては何億円も投資しているにも関わらず、コスト管理にまだまだ改善の余地がある、という状態ですね。

テレビCM広告費の使い道を逆算して考える

冨岡:
企業は「CMインハウス」を通じてテレビ広告費の使い道が可視化され、指標として見られるようになったわけですが、どのような指標でテレビCMを評価しているのですか?

冨岡さん

田中:
評価指標はいくつかあります。例えば、チェーン展開をしているファミリーレストランがカレーフェアをやっているとして、そのテレビCMを放映している地区とそうでない地区でテレビCM、というかフェアの認知率が絶対に変わります。

これにより店頭の販促物の広告効果を測ることができます。テレビCM放映地域の認知率が30%で、未放映地域の認知率が25%だった場合、店頭の販促物のみで25%の認知率は獲得できる、ということがわかります。そして次に来店の比率、こちらも確実にテレビCMの放映有無で差が出てきます。テレビCMやそこで訴求しているフェアの認知率が何%上がると、来店率が何%上がるのか、そして最終的にフェア対象商品の売上が何%上がるのか、全て測ることができます。

そして、次に別のフェアやキャンペーンを実施する際に、前回のデータを元に、目標数値を達成するために広告費にいくらかけるのが適切か逆算していくことができます。実は、テレビCMの出稿に「CMインハウス」をご活用いただき、テレビ広告費の使い道を可視化するということで、予算の最適化ができるようになるのです。

またデータがあることでキャンペーンの結果、数値が想定より伸びなかった場合、どこに原因があるのかもわかってきます。認知率が伸びなかったのであればテレビCMのクリエイティブに要因であると想定できますし、来店までは好調なのに商品が買われていないのであればメニューのクリエイティブが要因なのではないか、また商品力が弱かったかもしれない…となるわけです。実は CMの出稿状況を可視化することで、このような課題も可視化することができます。

これからの日本を創っていく企業の成長を、広告クリエイティブの力で支援したい

冨岡:
「CMインハウス」はGOに在籍されているときに立ち上げられたサービスですが、電通からGOに転職される際はどのようなマインドだったのですか?

田中:
電通在籍時は日本を代表する企業を担当させていただき、仕事のスケールも大きく、とても楽しかったのですが、今現在日本を代表する企業、ではなくこれからの日本を創っていく企業をブランディングやクリエイティブ、コミュニケーションの領域で支援し、事業成長に貢献していきたいと考えていました。例えば、投資をかけ合わせたり、社内の教育制度も一緒に作っていったりなど、自分の領域を広げたいという思いでした。ちなみに、僕は父も母も、そして祖父も電通に勤めていて、三代連続電通社員だったこともあり、辞めるときはとてもびっくりされました。

冨岡:
広告業界に進むことは、かなり前から考えられていたのですか?

田中:
そうですね。メディアか広告業界に進みたいとは思っていました。実際に広告業界に進んでみたら様々な業界の企業を担当させていただいて、もの凄く面白かったです。そして、テレビCMや新聞広告だけでなく「広告クリエイティブの力」というのは、社員のモチベーションを上げることや、企業の魅力を投資家や、社会全体に伝わるように設計するなど、広告の力はもっと活かせるはずだと思いました。それがGOに転職するきっかけの一つでした。

冨岡:
広告業界って本当にエキサイティングな業界で、自分自身で新しい仕事を創っている感覚がとてもありますよね。

田中:
そうですね。かつて電通がテレビCMの取引形態でメディアマージンを設定し、テレビCMを出稿するには代理店を介するという仕組みを築き、「視聴率」という放映枠の価値を決め、視聴率を計測する会社も自分達で作ったということは本当にすごいと思います。本来テレビ局側が決めてもいいようなことにも関わらず。このビジネスを生み出す力が、広告やコミュニケーションの領域において必要だと思うので、これからもそういうことに取り組んでいきたいです。

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テレビ局の変化とレガシーを打ち破る広告主企業の意識

冨岡:
テレビCM枠の買付にしても「CMインハウス」のように新しい仕組みが生まれているわけですが、テレビ局側の変化についてはいかがですか?

田中:
テクノロジーがどんどん進化しているので、テレビ局側もチャレンジしていると思っています。例えば、日本テレビがインプレッション取引を開始しようとしていたり、ABEMAやTVerなどのコネクテッドTVが台頭してきていたり。今やテレビは地上波テレビではなくテレビというデバイスを指す言葉になっていると思います。このような変化の激しい時代だからこそ、一層広告主が自分たちで出稿データを保持していることを当たり前にしなければいけないじゃないですか。僕は「CMインハウス」でそこにチャレンジしています。

冨岡:
「CMインハウス」のお取引先を拡大していく中で、レガシーな商慣習とぶつかるシーンがあるかと思いますが、実際にいかがですか?

田中:
サービスは凄くいいが、変化が怖い、切り替えるのに抵抗がある、などのご意見をいただくことももちろんあります。しかし、逆に導入してくださる企業は先程お話した通りスタートアップやベンチャー企業が多いです。初めてテレビCMを出稿する、または出稿を検討してみたい、というときに我々であれば最も親身になって受けてくれるのではないか、ということでお声がけいただくケースが多いです。既にテレビCMを出稿されている企業はまさにレガシーと対峙することになるのですが、それでも「CMインハウス」を選んでくださるのはCMに対する理解度が高く、課題意識がある企業です。

『脱・担当ガチャ』をするために

冨岡:
大手広告代理店も、同じように可視化して分析もしているのでしょうか?

田中:
もちろん分析されていますが、もの凄く大変というか、手間がかかるので広告代理店の担当者によってその粒度はまちまちだと思います。
広告主にとっては、どの会社にお願いするかはもちろんですが、代理店の担当者がどれだけ親身になってくれているかってがすごく大事で、大きな会社であればあるほど、担当者によってその度合は異なってくると考えています。

広告主が代理店の担当者の優秀さに左右されることを僕は『担当ガチャ』と呼んでいるのですが、『担当ガチャ』をなくすには広告主が自身で判断できるように評価指標やデータ、経験を保有していかないといけない。そしてそれは個人ではなく組織で共有しなければならないと思うので、それを実現するために「CMインハウス」を創りました。効率的な広告予算の活用を、継続的に行っていくには、その仕組み作らないといけないなと。我々はクライアントにいい知見を共有し、適切な広告予算の活用を支援するパートナーになっていきたいと思っています。

冨岡:
非常によくわかります。テレビCMのバイイング力などの観点から、取引する代理店の会社の規模感は選定基準になり得るのですが、『担当ガチャ』を成功させるためという意味合いだと、必ずしも大手の代理店を選ぶことが正解とは言えないのではと思います。属人的なノウハウ・ナレッジをいかにデジタルな共通の管理下に移行していくか、というところは非常に奥が深いところですよね。

田中:
はい。例えば、以前担当していたクライアントに「田中さんのときは良かった」というふうに言っていただくことって、全く美談でも喜ぶことでもなくて、継続できるいい仕組みを築くことができなかった自分の能力不足だと思わないといけないんですよね。
担当者が変わったり、休みに入ったり、転職したり、異動したりしても、継続的にできる仕組みがあるかどうかは非常に重要です。

冨岡:
私もさまざまな企業の広告出稿の過程を知る機会があるのですが、仕組みの部分はもっと簡素化できそうだな、とか順番を変えたほうがいいのでは…とか色々と思うことがあります。

対談風景

田中:
テレビCMの枠を買い付けるためには、当然各テレビ局の口座を開け、取引を始める必要があるので、一定のハードルがあります。それでも我々新興勢力が進むことができているのは、テレビ局さん側が正しいビジネスであると評価して、期待をして、協力してくださっているからなのですよね。

冨岡:
テレビ枠の仕入れにおいて、裏側の黒い力を感じたりすることはありますか?

田中:
今のところは、ないですね。むしろテレビ局さんからはベンチャー・スタートアップ企業が「テレビCMをなんとなく怖いから、わからないからやらない」という状況を「CMインハウス」が打破してくれるのではないか、という期待があるのかなと。

冨岡:
出稿企業の層が広がれば、マーケットが大きくなりますもんね。
最近改めて、ベンチャー・スタートアップ企業のテレビCMマーケットへの貢献余地が大きいなと思っていて。例えばスタートアップ企業が5億円を調達して、そのうち3億円をテレビCMに費やして、失敗して無駄にしてしまった場合、その会社はもう取り戻すのが非常に難しくなるじゃないですか。DEAD OR ALIVE、みたいな。

そのような状況ではじめから如何に成功率を上げるか、というのは非常に重要で、介在価値が高いと思います。

大手企業と、ベンチャー・スタートアップ、お客様の割合はどのような内訳ですか。

田中:
社数ですと、1対1ですね。金額はやはり大手企業の方が多いですが、社数のバランスは私的に理想のバランスです。売上だけを求めるのであれば、ナショナルクライアントと言われる企業を中心にお取引できるようにすればいいのですが、それだとわざわざ大手を飛び出した意味がなくなってしまうんです。正しくテレビCMを活用してもらうことを目指してやっているので、お取引先のバランスは結構意識しています。

テレビCM放映前に最高到達点を実現するために

冨岡:
中長期的にはどのようなことを目指しているのですか?

田中:
今はメディアバイイングに付随したサービスとして「CMインハウス」というダッシュボードを提供していますが、将来的には 全広告代理店のテレビCM買い付けデータに対応して、すべてのテレビCM出稿企業が「CMインハウス」使っている状態にしたいです。
契約書の締結や経理においてもさまざまなクラウドシステムが登場し、DX化・見える化がされて、組織で共有されるようになってきています。テレビCMだって何億円もかけているのだから、同様に管理することを当たり前な世界にしたいですね。デジタル広告だって管理画面があるわけですし。

冨岡:
私も、様々なSNS媒体の管理画面に「PlayAds」のボタンがあって、出稿する前に誰でも動画を検証することができて、例えばA案とB案があったら評価がいい方のクリエイティブだけ配信することを当たり前にしたいです。

田中:
悪いことではないのですが、これまでのクリエイティブ制作は監督と広告主側の経験と勘だけで完パケしていて、経験も勘も大事なのですが、そこに加えて一般消費者の目線・意見にも目を向けることも大事だなと思います。従うのではなく。

自分たちがしつこく伝えようとして努力したことが、実は伝わっていないことに気づき、アプローチ方法を変えることもできますし。例えばお母さんがお茶出しをしている、という何気ない生活の一部を切り取ったシーンのはずが、家事が女性の仕事という先入観を与える表現だと感じた人がいることに気づかず、制作したCMが炎上して媒体費も制作費もパーになってしまう。これを「PlayAds」で事前に検証すれば数十万で防ぐ、だけでなく品質も上げることができるということを、当たり前にしたいなと思います。

冨岡:
電通、GOの時代も含め、CMを出稿する側としてその辺りの課題感は当時からありましたか?

田中:
ありました。当たり前と言えば当たり前ですが、クライアントと共に戦略を練り、時間をかけて制作を行った以上、より多くの人に届けたいと思いますし、せっかく私たちを信じてくださったのですから、必ず成果を上げたいと考えています。『美しい広告を作ったけれど、売上は伸びなかった』という結果は、とても恥ずかしいことだと思います。そのため、できることは一つ一つ、全て徹底的に行う必要があると感じています。業界を見渡した時、『徹底的に行う』を実現するためのプレイヤーがいないことに気づきました。放映後ではなく、放映前に、すなわち買い付けの部分での効率化を目指す企業が存在しなかったため、その役割を担いたいと思ったのです。

冨岡:
広告予算が潤沢ではない場合や、初めてテレビCMに取り組む場合でも、「CMインハウス」のようなサービスがあることで、ある程度の再現性というか、テレビCMの効果を享受できる企業が増えそうですよね。

田中:
本来テレビCMをやるべきではない企業がやっているというケースもあると思います。1億円予算があったとして5,000万円で十分で、残りの5,000万円を採用や商品開発など別のことに費やせる。逆に、もっとテレビCMに投資すればもっと成果を上げられる、ということも。そういう正しい予算の活用の仕方に徹底的にコミットしたいです。

TRUE MARKETING編集部
ライター:TRUE MARKETING編集部
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