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「迷ったら、想像できない方へ」多様なキャリアの先にたどり着いた千葉県岩井での挑戦  SHIP竹本萌瑛子 #サプライジングパーソン

2025.07.02Premium Contents
「迷ったら、想像できない方へ」多様なキャリアの先にたどり着いた千葉県岩井での挑戦  SHIP竹本萌瑛子 #サプライジングパーソン

ソーシャルギフトサービス「GIFTFUL」を運営する株式会社GiftXいいたかゆうたさんが、マーケターと対談しつつその知見を学び、変化の時代を生き抜くビジネスの本質に迫る連載「サプライジングパーソン」。

今回のゲストは、「SHIP / SHIBUYA IWAI PARK」の広報で「たけもこ」の愛称で知られる竹本萌瑛子さんです。

X(旧Twitter)への「熊本の芋野球少女から 表参道で撮影する女になっちゃったよ お母さん」の投稿で、一躍注目を集めた竹本さん。ヤフー(現LINEヤフー)、ベンチャー、フリーランスと多彩なキャリアを歩み、現在は千葉県南房総市の岩井海岸エリアにあるローカル複合施設「SHIP(SHIBUYA IWAI PARK)」のメンバーとして活動しています。

変化を恐れず常に新しい環境に身を置いてきた竹本さんが、これまでのキャリアで何を学び、そしてSHIPで何を目指しているのか。その軌跡と未来への想いを語っていただきました。

(執筆:サトートモロー 進行・編集:いいたかゆうた 撮影:小林一真)

最初のキャリア・ヤフー時代に培われた「説明責任」

いいたか:
竹本さんはそもそも、なぜ新卒でヤフーを選んだのですか?

竹本:
理由は大きく三つあります。一つ目は「業界」です。私は大学時代、TOPPAN株式会社が運営するプロジェクトチーム「キャンパスラボ」などでPR活動のプロジェクトに参加していたことがあります。その時の経験から広告そのものに興味を持ち、ウェブ広告業界に絞って就職先を探し始めました。

社会課題を押し付けない。女子大生が挑む、親しみやすいSDGs啓発のあり方 TOPPAN キャンパスラボ 中山柚希✕坂口真依子✕井上登美

いいたか:
広告業界の中でも、なぜヤフーだったのでしょう?

竹本:
それが二つ目の理由で、「副業ができる」からです。私が就職活動をしていた約10年前、副業OKの企業はとても少なくて、自然と会社は絞られていきました。

そして、ヤフーを選んだ三つ目の理由が「事業の多様性」です。就職活動中、広告以外にやりたいことが見つからず、「入社後に別のことがやりたくなったらどうしよう」という不安がありました。その点、ヤフーは多種多様なサービスを展開しているので、社内で異動すれば別のことができるかもしれないという期待感があったんです。

いいたか:
副業や事業の特異性など、働き方の柔軟性に対するプライオリティが竹本さんの中では高かったのですね。

竹本:
そうかもしれません。自己分析を重ねる中で、私は新しいことを始めたり新しいスキルを身につけたりすることに、大きな喜びを感じるタイプだと気づきました 。本業は本業としてしっかり取り組みつつ、副業などで新しいことに挑戦してスキルを身につけるというスタンスが、自分の性格には合うと思いました。

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いいたか:
ヤフーでは具体的にどのような業務を担当したのですか?

竹本:
ウェブ広告のマーケティングチームにいました。仕事内容としては、ヤフー広告のアップデート情報や施策事例、活用方法などを広告代理店さんや広告主さんに発信していく、コミュニケーションマーケティングが中心でした。

いいたか:
ヤフーには3年ほど在籍したのですよね。ヤフー時代に学んだことで、今も生かされていることは何ですか?

竹本:
『マーケターのように生きろ』の著書で知られる井上大輔さんが私の上司でした。その井上さんから教わった言葉で、印象に残っているのが「説明責任」です

何をするにしても、「なぜそれをやるのか」という説明責任を果たすこと。「なぜやりたいのか」を深く考える癖がついたのは、この言葉のおかげだと思っています。

「マーケターのように生きろ」著者井上大輔氏インタビュー~大切なのは相手視点に立った価値提供~ | Premium Contents | TRUE MARKETING byGMO

大企業からベンチャーへ。背中で学んだ「自走力」のある働き方

いいたか:
ヤフーを経て、インフルエンサーであり実業家の5歳さん が経営する株式会社アマヤドリに転職しています。これはどういった経緯があったのですか?

竹本:
転職のきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大でした 。ヤフーのメンバーが大好きな私にとって、完全リモートワークで一日誰とも会わないような生活が、精神的にしんどくて。このままじゃいけない、何か新しいことを始めようと思った時、5歳さんに「じゃあ、うち来る?」と誘っていただいて。それで転職を決めました。

いいたか:
大企業からベンチャーへの転職で環境は大きく変わったと思いますが、そこで感じた変化や難しさ、得られたものはありましたか?

竹本:
一番痛感したのは「自走力のなさ」です。自分では自走力がある方だと思っていたので、これは少しショックでした。

ヤフーにいた頃、チームリーダーが常にプロジェクトの進捗を管理して、私たちは彼らに確認をしながら仕事をするのが当たり前でした。一方、ベンチャーでは自分が物事を判断・実行しないとプロジェクトが前に進まない場面がたくさんあったんです。たくさんの失敗を重ねながら、仕事の違いを学びつつ自走力を鍛えていきました。

それと、5歳さんの働き方もすごく参考になりました。というのも、5歳さんってすごく自信に満ちあふれているんです。「これは絶対に良いと思います!」と、初回のミーティングから言い切れるような人でした。

私は真逆で、何かを「良い」と断言すること自体がすごく苦手です。でも、5歳さんの発言がクライアントを安心させ、「あなたを信じます」と信頼関係構築にする場面を何度も目の当たりにしました。そうやって言い切ることが、仕事ではものすごく強い武器になるのだと強く感じました。

5歳さんとはOSが違うので、完全に自分の武器にできているわけではありませんが、大事な場面で自信を持って「できます」と言えるようにはなった気がします。今に至るまで、井上さんの教えと5歳さんの仕事の仕方を意識しつつ、自分なりに組み合わせて仕事をしています。

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フリーランスで感じた閉塞感から脱却したSHIPへのジョイン

いいたか:
アマヤドリを辞めた後、フリーランスになったのですよね。

竹本:
はい。アマヤドリは1年半ほど働いた後に退職しました。もともとヤフーを退職した時から「いずれフリーランスになる」という覚悟があったので、あまり長くは在籍しなかったんです。

フリーランス時代は、学生時代から続けていたライターの仕事とモデルの仕事、そしてSNS運用の3本柱で活動しました。しばらく働いた後、SHIPのプロジェクト代表である牧野圭太 さんに誘われて、これまでの仕事をひと区切りさせてSHIPにジョインしました。

いいたか:
SHIPへのジョインの決め手は何だったのですか?

竹本:
牧野さんに誘ってもらったことも大きいですが、それ以外に、フリーランスの仕事に行き詰まっている感じがあったというのが大きな理由です。

ライターの仕事は好きだったんですが、書き方にパターンができてしまったというか、「困ったらこう書こう」という書き癖が出てきてしまって。SNS運用も、キャンペーンを展開しつつ「これ、誰のためにやっているんだろう?」という疑問が頭から離れなくなってしまったんです。

仕事に対する虚しさや慣れに対する焦りが強くなり、新しいことを始めたいと思っていた時に、SHIPから声をかけられました 。その後、何度か岩井に足を運ぶうちに、岩井という土地がすごく好きになって。SHIPが目指しているビジョンにもすごく共感して、ジョインを決めたんです。

昨年(2024年)の7月には岩井に移住して、東京との2拠点生活を送っています。

いいたか:
SHIPでは現在どのような活動をしているのですか?

竹本:
「広報」という肩書はあるんですが、広報らしい仕事はほとんどしていません(笑)。SNS運用などはしていますが、牧野さんともう一人のメンバーである磯村芳子さんとで、流動的にさまざまな仕事をこなしています。

施設内のコーヒースタンドで働いたり、イベントの運営をしたり。昨年の夏は肉体労働がメインで、校舎の壁をひたすら塗り続けたり、永遠に草を刈ったりしていました(笑)。

いいたか:
まさに「なんでも屋」ですね。これまでとは全く異なる仕事をしていて、何か発見はありましたか?

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竹本:
ペンキ塗りや草刈りって、進捗がものすごく分かりやすい作業じゃないですか。「今日はこれだけ草を刈った」「この草を刈った先には駐車場ができている未来が見えるぞ」と成果が見える仕事は、自己効力感をすごく高めてくれました。

いいたか:
SHIPでの手触り感のある活動が、竹本さんにとって良い影響を与えたのですね。

「公園のような場所」を目指して。SHIPが描く未来と地域との共生

いいたか:
改めて、SHIPとはどのような場所なのか、そして何を目指しているのか教えてください。

竹本:
SHIPは、「SHIBUYA IWAI PARK」の頭文字を取った名称です。なぜ「渋谷」とついているかというと、もともとこの場所が渋谷区の臨海学校だったからです

この施設は、夏の間だけ渋谷区の子どもたちが冒険教育を目的に訪れる場所でした。それが、5年ほど前から様々な事情で使われなくなってしまって。海から歩いて2分くらいのすごく良い立地なのに、活用されていないのはもったいない。そう感じた牧野さんが発起人となり、再活用できるようにしようと立ち上げられたのがSHIPです。

現在は、宿泊棟を整備したりグラウンドをキャンプ場にしたり、体育館でさまざまなイベントが開催できたりとさまざまな改修を加えています。ゆくゆくはレストランをオープンしたりマリンアクティビティができるようにするなど、さまざまな機能を持った「ローカル複合施設」を目指しています。

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いいたか:
SHIPは将来的に、どのような場所として使われるのをイメージしていますか?

竹本:
「公園のような場所」をスローガンに掲げています。地元の方々も遊びに来つつ、もともとの臨海学校としての魂を受け継ぐように、東京など都心に暮らす人々が自然を楽しみに来る場所にもしたい。そんな、誰でも気軽に遊びに来られるような開かれた場所にしたいです。

そもそも、岩井は民宿の町として栄えていたエリアです。今でもたくさんの民宿があって、学生が音楽合宿で団体で訪れたりしています。それでも、昔の賑わいに比べると廃れてしまっている部分もあるのが現状です。「SHIPをきっかけにして地元を盛り上げたい」と地元の方々も思ってくださっていて、さまざまな場面で協力してくださいます。

いいたか:
東京から来た人間がローカルに入って何かを始める時、地元の方々との間に軋轢が生まれるケースも聞きます。SHIPの場合、岩井の皆さんは最初から協力的だったのですか?

竹本:
いえ、最初からというわけではありませんでした。メンバーの一人である磯村さんは、岩井に移住してから地元のスナックでアルバイトをしたり、牧野さんや私も二拠点生活を始めて積極的に地元の活動に参加したりしました。そうやって知り合いを増やしながら、少しずつ地域に溶け込んでいったんです

資金力も人手もないプロジェクトでむしろ手伝っていただくことも多く、まだまだ至らないところもあります。しかし、そういった小さなコミュニケーションが、信頼いただく要因につながっているのかもしれません。

私も地元の野球チームに入れていただいて、この間ついにデビュー戦だったんですよ!ユニフォームをもらった時は、認めてもらえたような気がして本当に嬉しかったです。まさか野球の能力をここで発揮できるとは思ってもみませんでした(笑)。

いいたか:
やはり地元との関係性は非常に重要ですよね。反対されてしまったら、活動自体が厳しくなってしまいますし。

竹本:
そうですね。最近では、SHIPが犬の散歩コースになっていてほぼ毎日顔を出してくれる方や、百メートル離れていても私たちを見かけると挨拶してくれる方などもいます。

いいたか:
人とのつながりや地域との関係性が、着実に築かれているのですね。

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まさかの“ヤギブランド”立ち上げ。想像できなかった「やりたい」を実現できる場所へ

いいたか:
SHIPでの活動を通して、竹本さんご自身が特に印象に残っている経験や、新たな発見はありましたか?

竹本:
ヤギ小屋を作った時が一番興奮しました(笑)。「形あるものを作った!」みたいな達成感があって。

いいたか:
ヤギ小屋! たしか、SHIPでは2頭のヤギを飼っているのですよね。

竹本:
4月に子ヤギの“パー”が生まれたので、今は3頭です(笑)。

去年の8月、木更津にある「えころも牧場農園」さんから“シー”と“プー”という2頭のヤギを迎えました。もともと飼い始めた理由は、牧野が「生き物がいると空間に命が宿るし、風景としてより良いものになる」と言っていて。えころも牧場農園さんに見学に行った時、30頭くらいいるヤギの中で最初に私たちに寄ってきてくれたのが、この子たちだったんです。

いいたか:
運命的な出会いだったのですね。実際に飼い始めてみていかがですか?

竹本:
すっかりSHIPの大切な仲間になりました。グラウンドの草を除草してくれるだけでなく、2頭が大好きな訪問者さんも増えていて、宣伝部長として大活躍中です(笑)。

いいたか:
SHIPの活動に、ヤギたちも一役買っているんですね。

竹本:
それと、私はもともと犬を飼っていたこともあって動物は好きなんですが、ヤギには犬にも猫にもない独特の魅力があるなと感じています。犬みたいに人懐っこくて、名前を呼んだら来てくれるんです。でも、猫のように自由気ままに草を食んでいる時もある(笑)。愛情を注げば注ぐほど信頼してくれるのが伝わってきて、感情豊かな動物なんだと知ってから、どんどんハマっていきました。

特に好きなのが、ヤギの「反芻(はんすう)」している様子です。一度食べたものをもう一度口に戻して、ゆっくりと味わい直す。人間にも、今日あった出来事をじっくり考え直す、反芻のような時間が必要なんじゃないかなと思いました。

そこから着想を得て、「HANSUU」というアパレルブランドを立ち上げました

HANSUU

いいたか:
ブランドまで立ち上げたんですか!

竹本:
ヤギが本当に好きになって、ヤギモチーフの服を探したんですけど全然なくて……。それなら作ってしまおう!と(笑)。

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いいたか:
新しいことにどんどんチャレンジしているという雰囲気を感じます。竹本さんは今後、SHIPでどのような活動をしていきたいですか?

竹本:
SHIPでやりたいことは本当にたくさんあります。これまでもさまざまなイベントをやってきましたが、5月に開催した映画上映会は、胸が熱くなりました。

「SHIP CINEMA」始まります!第1回目は5/25『C’MON C'MON』 | SHIP / SHIBUYA IWAI PARK

自主開催のイベントだけじゃなく、SHIPに関わる皆さんから「SHIPでこれをやりたい」と企画を持ち込んでくれることも増えていて、それも楽しみの一つになっています。ある時、倉橋さんという地元のおじいちゃんが、自分たちがやっているバンドのライブをやらせてほしいと声をかけてくださったんです。バンド名は「BBB」で、どういう意味かを聞いたら「ボケ防止バンド」だって(笑)。

集客も機材の手配も全部ご自身たちでやられて、当日は、彼らが集めた30名くらいのお客さんと一緒に、すごく盛り上がりました。ライブの写真を撮るのはすごく楽しかったなあ。

https://shibuya-iwai-park.com/post/blog011/

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竹本:
「企画力をテーマに講師をしてほしい」と個人の依頼を受けた時も、「SHIPでやりたいイベントを提案する」というワークショップを企画したんです。講座では、4日間でイベントを1つ完成させて、最終的に選ばれた企画をSHIPで実施するという内容にしました。

こういう企画も含めて、SHIPをいろんな人の「これやってみたかったんだよね」を叶えられる場所にしたいというのが今一番やりたいことです

いいたか:
みんなの「やりたい」が集まる場所か。それが実現できたらSHIPはもっと面白い場所になりそうですね。

竹本:
正直に話すと、私自身はあまり「社会のために」とか大きな志を持って仕事をしているわけではありません。最初に考えるのは自分のことで、まずは自分が納得できるか、楽しめるかを大事にしています。それでも迷った時は、「想像できない方に行こう」と決めています

SHIPは常に「想像できないこと」の連続で、だからずっと頑張れているし、楽しめているんだと思います。私なりに想像できないことに挑戦し続けていきながら、SHIPをたくさんの人々が来てくれる良い場所にできたら嬉しいです。

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飯髙悠太(いいたかゆうた)
ライター:飯髙悠太(いいたかゆうた)
株式会社GiftX Co-Founder
@yutaiitaka
2022年7月に「ひとの温かみを宿した進化を。」をテーマに株式会社GiftX共同創業。
自著は「僕らはSNSでモノを買う」、「BtoBマーケティングの基礎知識」、「アスリートのためのソーシャルメディア活用術」。
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