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AIは経営者の何を変えるのか | Somni Consulting門倉昭博氏に聞く経営者アドバイザリーの価値

AIは経営者の何を変えるのか | Somni Consulting門倉昭博氏に聞く経営者アドバイザリーの価値

情報収集や分析、資料作成をAIに任せられるようになったとき、経営者は何に時間を使うべきなのか。Somni Consulting代表の門倉昭博氏が重視するのは、「何を問うか」「何を優先するか」、そして「何をやらないか」を決めることです。

門倉氏は、J&JグループとAGCグループの事業会社で、計14年間にわたり社長として経営を担ってきました。日本と海外での意思決定や組織変革の経験をもとに、現在は経営者アドバイザリーを手がけています。自身が本音で相談できる相手を求めた経験、AIとの役割分担、スペインでの事業変革を踏まえ、AIは経営者に何をもたらし、何が代替できないのか。経営の最前線で意思決定と実行を担ってきた経験から、その可能性と限界を探ります。

経営者アドバイザリーとは

Somni Consultingの経営者アドバイザリーは、経営者が抱える課題と優先順位を整理し、自ら判断して実行できる状態をつくるための支援です。何をするかに加え、何を今はやらないかを明確にし、限られた経営資源の集中先を一緒に考えます。

今回話を聞いた門倉昭博氏は、Somni Consultingの代表です。J&Jグループの事業会社で7年間、AGCグループのスペイン事業会社AGC Pharma Chemicals Europeで7年間、計14年間にわたり社長として経営を担ってきました。

日本、アジア、欧州、北米で事業に携わり、海外駐在経験は計14年。海外事業やM&A・PMI(買収後の経営統合)、組織変革などを経験しています。MBA(Dartmouth, Tuck)を取得し、米国公認会計士試験に合格しています。

聞き手は、GMO AIかんたん集客の吉田一貴です。

説明が整っていることと経営判断が正しいことは違う

Somni Consultingの出発点には、門倉氏自身が経営者として、本音で判断をぶつけられる相手を求めた経験があります。社内外への説明を整えるだけでは見落としがちな前提や選択肢を、経営の現実を理解する相手と率直に問い直すことに価値を見いだしています。

吉田:Somni Consultingを始めた背景には、どのような経験があったのでしょうか。

門倉:経営者として仕事をする中で、何度も「本音で判断をぶつけられる相手がいればよかった」と感じる場面がありました。

経営者は、取締役会や株主、顧客、社員など、さまざまな相手に説明責任を負っています。分かりやすく、納得感のあるストーリーをつくることも必要です。ただ、説明が整っていることと、経営判断そのものが正しいことは、必ずしも同じではありません。

重要な意思決定ほど、「自分は都合のよい前提に寄っていないか」「本当にこれが最善なのか」「別の選択肢はないのか」と、自分の考えを疑う視点が必要になります。社内の利害や立場から少し離れ、経営の現実を理解したうえで、耳の痛いことも率直に言ってくれる相手には大きな価値があると感じていました。

Somni Consultingでも、経営者の代わりに答えを出すのではなく、最終的な意思決定をより確かなものにするために、率直に議論できる相手でありたいと考えています。

吉田:ご自身が社長を経験していることは、支援にどう生きていますか。

門倉:業績や投資、人事、組織変革、海外事業、M&A・PMIについて、助言する側ではなく、自ら決め、実行する側に立ってきたことです。

決断するときの迷いや社内外への説明責任だけでなく、実行段階で生じる抵抗や想定外の問題も経験してきました。そのため、「自分がその立場なら何を考えるか」「その判断を実行したとき、次に何が起こるか」まで踏み込んで議論できます。合理的な提案をするだけでなく、実行する経営者の立場を理解して話せることが、私の強みだと考えています。

優先順位を決めることは今やらないことを決めること

多くの課題を抱える経営者にとって、優先順位を掲げるだけでは経営資源の集中につながりません。門倉氏は、数字と現場の両方から会社を理解し、経営者自身が「何を優先し、何を今はやらないか」を具体的な意思として示せるよう支援しています。

吉田:経営者アドバイザリーでは、具体的に何を支援するのでしょうか。

門倉:経営者は、売上や受注を増やしたい、コストを削減したい、生産性を上げたい、安全にも配慮したい、離職率を下げたいと、多くの課題を抱えています。目の前の問題に追われるほど、何を優先すべきかが曖昧になり、全体の業績改善につながらないことがあります。

そこで、「どこから問題を紐解くか」「何を最優先にするか」「この会社の強みは何か」を一緒に整理します。大切なのは、優先順位を掲げるだけでなく、「短期的な成果がすぐに出なくても、このプロジェクトだけは必ず成功させる」と、経営者自身が具体的な意思を示せるようになることです。

優先順位を決めることは、何を今はやらないかを決めることでもあります。経営資源の集中先が明確でなければ、組織はすべてに手を出し、どれも中途半端になってしまいます。

その判断のために、数字だけでなく、会社の雰囲気や現場の様子、社員やマネジメントの発言にも触れながら会社を理解します。仮説を置き、経営陣との議論で検証していく。最終的に、経営者が自社の強みや本当の問題、優先すること、やらないことを自分の言葉で語れる状態を目指します。

吉田:どのような企業やタイミングで、その支援が役立つと考えていますか。

門倉:特に、海外事業を持つ企業、新任経営者、M&Aや事業承継後の経営で力を発揮できると考えています。

新任経営者は、限られた時間で会社の強みや本当の課題を見極めなければなりません。社内の延長線だけでは見えにくい論点を整理し、自分の言葉で経営方針を語れるようになる支援が有効です。

海外事業やM&A・事業承継後では、組織文化や意思決定の仕方が異なる中で、何を変え、何を残すのかが問われます。新しい経営の軸をつくる場面に、これまでの経験を生かしたいと思っています。

AIで答えを磨く前に問うべきことを確かめる

門倉氏は、情報収集や分析にAIを活用する一方、問うべきこと自体が適切かを確かめる必要性を指摘します。AIで提案を磨いていたものの、顧客が求めていたのはもっと基本的な第一歩だったという経験が、その考えの背景にあります。

吉田:AIの普及によって、経営者の仕事はどう変わると思いますか。

門倉:情報収集、翻訳、資料のたたき台づくり、定型的な財務分析などは大きく変わると思います。現役社長の時代に今の水準のAIがあれば、もっと積極的に活用していたでしょう。現在も、こうした領域ではAIを使っています。

一方で、AIを使えば経営の質が自動的に上がるわけではありません。

この点で、トヨタ生産方式を築いた大野耐一氏の「自働化」という考え方は、AI時代にも示唆的だと思います。単に作業を自動化するのではなく、異常があれば機械を止め、人が原因を考え、判断するという発想です。

半世紀以上前に確立されたこの考え方は、現在のAI活用にも通じます。重要なのは、どこまでAIに任せ、どこで人が立ち止まり、問い直し、判断するかを見極めることです。

吉田:AIを使う中で、問い直す必要性を感じた経験はありますか。

門倉:ある提案をAIで何度も磨いていたことがあります。ところが、実際の顧客ニーズは、私が深掘りしていた論点よりも、もっと手前の基本的な第一歩にありました。

AIとの対話は便利で心地よい一方、自分の仮説を補強する方向に閉じてしまう危険もあると感じています。答えを磨くことに集中するほど、「そもそも問うべきことが違うのではないか」という視点を失うことがあるのです。

J&Jで新米社長になった頃、長年のお客様から、「会社は、あなたの思考の大きさ以上には大きくならない。会社を伸ばしたければ、まず自分の考え方を大きくしなければならない」と言われたことが忘れられません。

人との対話には、自分が見落としている論点や別の可能性に気づき、視点を変える価値があります。AI時代の経営者アドバイザーには、心地よく肯定するだけでなく、思考を健全に広げる役割が、より重要になると思います。

吉田:AIに任せることと、人が判断することをどう分けていますか。

門倉:任せられるところは任せる、という考え方です。翻訳、大量データの分析、要約、特定テーマの情報収集や初期分析などに使っています。ただし、私自身がAIエージェントを使う場合は、現時点では本当に定型化できる業務に限っています。

大量のアウトプットを高速で生み出しても、価値につながらなければ意味がありません。それらをどう組み合わせ、何を重要と判断し、どこに経営資源を配分するかは、人間、特に経営者が担うべき領域です。

AIに任せている業務の多くは、以前は自分でも行ってきた仕事なので、出力が妥当か、どこに違和感があるかを判断できます。これからは、判断に必要な基礎知識を効率よく身につけたうえで、本質的な判断により多くの時間を使うことが重要だと思います。

海外事業やPMIでは組織の共通言語をつくる

海外事業やM&A後の統合では、組織ごとに大切にすることや意思決定の進め方が異なります。門倉氏は、それぞれの文化や背景を理解し、何を変え、何を残すのかを共有することが、新しい組織を動かす土台になると考えています。

吉田:海外事業で、経営者が直面しやすい難しさは何でしょうか。

門倉:日本本社と現地組織で、「何を大切にするか」「どのスピードで決めるか」「誰が決めるか」といった前提が異なることです。その間に立つ経営者が、孤立しやすい場面もあります。

制度や方針を一方的に合わせるのではなく、それぞれの背景や文化を理解したうえで、共通の目的と意思決定の軸をつくる必要があります。海外子会社の経営、現地組織との関係づくり、本社との意思決定のすり合わせ、事業変革などを、双方の視点から整理することが私の役割だと考えています。

吉田:M&A後の統合、いわゆるPMIでも、同じことが重要になりますか。

門倉:はい。PMIは、組織図や制度を統合すれば終わるものではありません。「何を大切にするのか」「誰がどのように決めるのか」「何を変え、何を残すのか」を明確にし、新しい組織の共通言語をつくることが重要です。

私は、買う側、統合する側、買収される側、買収後に経営する側という複数の立場を経験しました。その経験を生かし、経営側の視点から統合方針や組織運営、実行上の論点を整理したいと考えています。財務や法務の専門業務を代替するのではなく、必要に応じて専門家と連携し、役割を分担して支援します。

スペインでの事業変革で学んだ思いを届ける難しさ

スペインの事業会社で医薬品の受託開発製造への転換を進めた門倉氏は、設備投資とともに、現地組織が変革の目的を理解することを重視しました。一方、現場の社員と直接対話する難しさも経験し、「意味が通じること」と「思いが伝わること」の違いを実感したといいます。

吉田:社長時代の経験の中で、経営の考え方につながっている事例を教えてください。

門倉:スペインの事業では、従来型の事業からCDMO、つまり医薬品の受託開発製造への転換を進めました。

5年間の変革計画として、「Jump Start」「Plant of the Future」「Realize our Vision」の段階を設定しました。事業基盤の立て直しから、1億ユーロ超の新規投資、そして目指す事業モデルの実現へとつなげていったのです。

重要だったのは設備投資だけではありません。「なぜ変わるのか」「何を目指すのか」を組織に理解してもらい、日々の意思決定や行動を変えていくことでした。現地の文化や意思決定の違いを尊重しながら、一緒に新しい事業の軸をつくることを重視しました。

具体的な業績数値は社外秘のため開示できませんが、その後、AGC Pharma ChemicalsはCDMOとして成長を続け、2025年にはCDMO Leadership AwardsでBest Manufacturing Capabilitiesを受賞しました。2026年にも、低分子APIの小・中規模企業部門で4カテゴリーのBest in Classを受賞しています。

吉田:その取り組みで、難しかったことや反省点はありますか。

門倉:マネジャー以上とは英語で十分に議論できましたが、それ以外の社員と深く対話するにはスペイン語が必要でした。

カタルーニャの文化や地域への関心を示し、できるだけ現地の人々に寄り添うことは心がけました。ただ、私にもっと高いスペイン語力があれば、現場の社員と直接思いを交わし、意識変革のスピードを高められたのではないかと思っています。

組織変革では、制度や戦略に加え、「誰に、どの言葉で、どこまで直接思いを届けられるか」が重要です。AI翻訳の品質が向上した今でも、「意味が通じること」と「思いが伝わること」は同じではありません。相手の文化や価値観を理解し、信頼関係を築きながら、人々の行動を変えていくこと。そこに経営者の重要な役割があると思います。

経営者が自ら決め実行できる状態を支える

Somni Consultingでは、相談の背景や課題を確認したうえで、支援の範囲や期間、進め方を設計します。対話や現場の確認を通じて選択肢を整理し、意思決定から実行後の振り返りまで、経営者が自ら組織を動かせるよう伴走する考えです。

吉田:相談から支援までは、どのように進めるのでしょうか。

門倉:最初に、現在の課題と背景、これまでの経緯を伺い、「何が本当の論点なのか」を整理します。必要に応じて業績資料や組織情報も確認し、課題の優先順位、支援の目的、私が担う範囲を明確にしていきます。

支援は、一律のパッケージや料金を当てはめるのではなく、相談内容や期待される役割に合わせて設計する考えです。単発のアドバイザリー、一定期間の継続支援、特定テーマのプロジェクトなどを想定し、内容、面談頻度、期間、費用をご提示します。

開始後は、必要に応じて現場や資料も確認しながら、仮説を置き、選択肢を整理し、意思決定から実行後の振り返りまで伴走します。オンラインと対面の双方に対応し、内容によっては現地訪問も検討します。

吉田:門倉さんの考え方を知るには、どのような発信を参考にできますか。

門倉:公式サイトやブログ、LinkedInで、経営、海外事業、組織変革、M&A・PMIについて、自身の経験をもとに発信しています。

サービス内容だけでなく、「RespectとHope」や大野耐一氏を取り上げた記事のように、経営に対する考え方そのものを伝えることを重視しています。今後は紹介、寄稿、登壇などを通じても、考え方を知っていただく機会を増やしたいと思っています。

吉田:最後に、Somni Consultingとして目指すことを教えてください。

門倉:経営者が論点を整理し、複数の選択肢を理解したうえで、自らの決断に確信を持ち、組織を動かして実行できる状態をつくることです。経営者アドバイザリー、グローバル経営、リーダー育成を軸に、意思決定や海外事業、M&A・PMI、組織変革、次世代経営者育成などに取り組んでいきたいと考えています。

AIによって、情報収集や分析、資料作成に費やしていた時間を減らせるようになるでしょう。だからこそ、何を問うべきか、何を優先し、何をやらないか、どう組織を動かすかが、ますます重要になります。

AIは仕事を効率化するだけでなく、経営者本来の役割を問い直す契機にもなると思います。その役割に向き合い、自ら考え、決断し、実行する経営者を支える存在でありたいです。

問いと判断に時間を使うために

AIに任せる作業が増えても、経営者が決めるべきことは残ります。どの課題に向き合い、何を後回しにし、その判断をどう組織の行動へつなげるのか。門倉氏が語る経営者アドバイザリーの価値は、正解を渡すことではなく、経営者自身が問いを確かめ、判断し、実行できる状態を支えることにあります。

AIの活用方法を考えることは、自社の経営で人が担うべき役割を考えることでもあります。率直に議論できる相手との対話は、その役割を見つめ直す機会になりそうです。

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プロフィール
吉田一貴
マーケティング支援会社での10年以上の経験。 各種マーケティングに精通し、累計運用額50億円以上・30媒体以上の実績を誇る。
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